突然ですが、皆さんはラーメンが好きですか?
私はご存じの方もいると思いますがラーメンが大好物です。
最近は医院の近くの虎一番さんの「鶏塩ラーメン」をこよなく愛しています。
しかしとても悲しいことに歳を取るにつれて大好きなラーメンを食べるのに罪悪感を持つようになりました。
例えばこちらのがっつりラーメン、お好きな方も多いのではないかと思います。
某有名大盛り系ラーメン
内容をみると炭水化物270g,タンパク質55g,脂質70gで作られており270×4+55×4+70×9=1930kcalと単純計算ですが概算を出せます。男性の1日分の総カロリーにすぐに到達してしまいます。
高血圧などの生活習慣病に悩む方にとっては、大げさかもしれませんが命を削って食べることになります。
高血圧はありふれた病気だが食事習慣によって気づかずに進行してしまう
そもそもあなたはどれほどの人が高血圧に悩んでいるかご存知でしょうか?
現在、日本人のうち約4300万人が高血圧であり、20歳以上であれば今や2人に1人が高血圧であると言われています。
ここまで一般的な病気であるにも関わらず、高血圧は様々な致命的疾患の原因になるため非常に厄介な病気です。
仮に人口全体の収縮期血圧を5mmHg下げることができれば、脳卒中による死亡率は14%減少、冠動脈疾患による死亡率は9%減少、全死亡率は7%減少すると言われています。1)
いかに血圧を適切に管理できるかが命に関わるといっても過言ではありません。
効果的な治療法としては、高血圧が生活習慣病である以上生活習慣の修正がその根本的な治療になります。
また2019年から降圧目標がより厳格になり、生活習慣の修正が以前にも増して求められるようになってきています。
せっかく生活習慣を見直すのであれば、間違った方法や誤った認識ではなく正しい知識を持って行動すべきです。
そこで今回は、高血圧を是正するための適切な食事療法や運動療法を解説していきます。
高血圧に対する非薬物療法の重要性
結論から言えば食事療法や運動療法などの非薬物療法は全ての高血圧患者さんに、まず勧められるべき治療法です。
理由は主に2つあります。
- 食事療法や運動療法にはそれ自体に血圧を下げる効果があります
- 薬物療法の効果を増強させるため内服薬の量や種類を減らせる可能性が高まるからです。
「非薬物療法=塩分摂取を控える」というイメージが強いかもしれませんが、実際には減塩だけではなく様々なアプローチ法があります。
多くのアプローチ法の中から、それぞれの好みや価値観や状態などに応じて適切な食事療法と運動療法を選択できることは、高血圧に悩む多くの方にとってメリットでしかありません。
また最近では飲食店やコンビニでもどの商品にどんな成分が含まれているか明記してあるため、自己管理がしやすくなっているのもメリットだと思います。
しかし、中には誤った知識や認識で食事療法や運動療法に取り組んでしまう方もいます。
せっかくの治療がかえって人体にとって有害な結果を生む可能性があるため、正しい知識を持って実践すべきです。
高血圧を改善するのは減塩、カリウム、節酒、DASH食
具体的に食事療法について紹介していきます。
減塩
塩分には水を引く力があり、ナメクジが塩で萎んでしまうのは塩分によって体内の水分を体外に引かれてしまうためです。
食事に含まれる塩分が多ければその分、血液内の塩分が水分を引いてしまうため血圧を上昇させます。
逆に塩分制限はダイレクトに降圧効果をもたらすことが分かっています。
塩分摂取量を6g/日まで減塩すると血圧は収縮期2mmHg、拡張期1mmHg低下し、3.8g/日まで減塩すると収縮期7mmHg、拡張期3mmHg低下する2)と言われています。
これらを踏まえて、日本国内では高血圧患者さんの食事療法として6g/日未満の塩分制限を推奨しています。
例えばシャケ1切れで2g、カレーで3g、インスタントラーメンは1個6g程度の塩分を含んでいます。 自分の日常生活を鑑みると塩分摂取量6g/日未満の目標はいかにハードルが高いか良くわかります。
国民健康・栄養調査の結果では1980年の塩分摂取量は12.9g/日であったのに対し、2017年には9.9g/日と年々減少しています3)が、目標値と比較してまだまだ高いことがわかります。
これからは摂取する食事のカロリーだけではなく、塩分にも注目してみることをオススメします。
また味付けに低塩の調味料や香辛料を使用し、外食や加工食品は控え、麺類のスープは残すことも効果的な方法です。
緑黄色野菜や果物を摂取する
皆さんが摂取した塩分は血液から濾過されて尿とともに排出されますが、この時カリウムがないと上手に塩分を尿に排出する事ができません。
つまりカリウムを摂取する事で効率的に体外に塩分を排出できるため降圧効果が期待できます。
緑黄色野菜や果物には豊富にカリウムが含まれているため、高血圧の方には積極的な摂取をお勧めしますが、国民健康・栄養調査の結果では2019年の日本人成人のカリウム摂取量は平均2168mgであり3)、摂取目標である3000mgにはまだまだ及びません。
果物に関してはカリウム以外に糖質も多く含まれているので、高血圧だけでなく糖尿病も有している方では摂取に注意が必要です。
また高血圧や糖尿病により腎臓の機能が低下している方では過剰なカリウム摂取は控えるべきです。
そのため定期的な採血検査が必要ではありますがカリウムの摂取に意識を向けるのは非常に大切なことです。
適度な飲酒
適度な飲酒は血圧を下げると言われていますが、過剰な飲酒はむしろ血圧を上昇させてしまう事が分かっています。
適度な飲酒とは具体的に、おおよそ日本酒1合、ビール中瓶1本、ワイン2杯程度です。
さらに体重の少ない女性の場合は、これの半分程度が目安になります4)。
お酒が好きな方にとってはこれもかなりハードルの高い基準だと思いますが、塩辛いおつまみを野菜に変えるだけでも効果的だと思います。
DASH食
最後にご紹介するのは米国国立衛生研究所で考案された血圧を下げるための食事、Dietary Approaches to Stop Hypertension、通称DASH食です。
具体的には、積極的な野菜、果物、低脂肪乳製品、魚、鶏肉、ナッツ類の摂取を推奨し、飽和脂肪酸や砂糖入りジュース、菓子類の摂取を制限する食事です。
塩分制限を行わずにDASH食に変えるだけでも降圧効果は期待できますが、減塩食と組み合わせる事でより大きな降圧効果が期待できます5)。
ご紹介した4つの食事療法は組み合わせる事で大きな減塩効果が期待できますが、実際に全てを同時に行うと修行僧のような食生活になってしまいます。
図1はそれぞれの治療法の降圧作用をグラフ化したものであり、これを参考に各自の状態や好みに応じて組み合わせて、継続可能な食事療法を実践することをオススメします。
高血圧に対する運動療法
結論から言えば、定期的な運動療法、とりわけ有酸素運動は降圧効果があります。
運動は有酸素運動と無酸素運動の2つに大別できて、マラソンのように持続的に呼吸しながら行う運動を有酸素運動、100m走のようにほぼ無呼吸で行う短期的な運動を無酸素運動と言います。
長期的な有酸素運度は、収縮期血圧を4-9mmHgほど低下させます。
また運動は高血圧以外にも肥満や糖尿病に対してもメリットがあるため、本当に有用な治療法だと思います。
心臓に病気を抱えている方は運動そのものがリスクになるため、自身の状態を鑑みて運動の強度を設定する必要があります。
運動時間は毎日30分、週180分以上の運動が理想的ですが、ただ走るだけでは苦痛な人もいると思います。
自転車や水泳、ゴルフやテニスなどのスポーツやガーデニングは有酸素運度であることが多く、ランニングが苦手な方にもお勧めの運動療法です。
まとめ
今回は高血圧に対する食事療法と運動療法をまとめて紹介させていただきました。
血圧管理は長期的な目線で行う必要があるため、長く継続できる無理のない治療法を模索する必要があります。
紹介した食事療法や運動療法の中で自分に合ったものを組み合わせ、極力ストレスなく日常生活を送りながら治療していただければ幸いです。
あなたの未来を変えるためできることを毎日少しずつ積み上げていくのが高血圧治療です。ぜひ一度お試しください。
【参考文献】
1) The Seventh Report of the Joint National Committee on Prevention, Detection, Evaluation, and Treatment of High Blood Pressure. National Heart, lung, and Blood Institute, 2014
2) Oza R GM, Garcellano M, et al: Nonpharmacologic Management of Hypertension: What Works?, Am Fam Physician 91: 772-776, 2015
3) 国民健康・栄養調査,厚生労働省
4) 高血圧治療ガイドライン2019, 日本高血圧学会
5) Sacks FM, et al: Effects on Blood Pressure of Reduced Dietary Sodium and the Dietary Approaches to Stop Hypertension (DASH) Diet. Dash-Sodium Collaborative Research Group. N Engl J Med 344:3-10, 2001