

こんにちは、しぎょう循環器内科の執行です。本日は診察室で心配そうに見せてもらうことが多い突然の足の血管拡張(くも状血管腫)に悩まれている方にぜひ知ってもらいたい内容です。


その不安、よくわかります
鏡を見ていて、ふと気づいた顔や首の赤い斑点。中央から放射状に広がる細い血管が、まるでクモの巣のように見える。
「これは一体何なの?」
「もしかして、がんの初期症状?」
「肝臓が悪いって聞いたことがある…」
あなたの心は今、不安でいっぱいになっているのではないでしょうか。
循環器専門医として年間3万人程度の患者さんを診察していますが、クモ状血管腫を見つけて来院される方の多くが、同じような不安を抱えていらっしゃいます。
待合室で「先生、これって悪い病気でしょうか?」と震え声で質問される患者さんの表情を、私は何度も見てきました。
インターネットで検索すれば検索するほど、「肝硬変のサイン」「血管の病気」「レーザー治療が必要」といった情報に翻弄され、夜も眠れなくなってしまった方もいらっしゃるでしょう。美容クリニックで「すぐに治療が必要です」と言われて、さらに混乱している方もおられるかもしれません。
でも、安心してください。今日、この記事を読んでいただければ、その不安は必ず解消されます。
あなたが感じている不安は、決して特別なものではありません
「ガンじゃないか」という恐怖
「血管のガンかもしれない」
「皮膚がんの初期症状では?」
「これが全身に転移したらどうしよう」
この不安、本当によくわかります。赤い血管の塊を見れば、誰でも「悪いもの」を連想してしまうのは当然です。
特に、テレビやネットで血管肉腫という怖い病気の存在を知っている方は、なおさら心配になってしまうでしょう。
僕の診察に来られた30代女性の会社員の方は、頬にできたクモ状血管腫を見つけてから、毎日鏡を何度もチェックし、「大きくなっているのでは」と心配で仕事が手につかなくなってしまいました。「子供がまだ小さいのに、私に何かあったら…」と涙ながらに相談されたことを今でも覚えています。
「肝臓が悪いのでは」という心配
「お酒を飲むから肝硬変になったのかも」
「肝炎ウイルスに感染している?」
「肝臓がんの前兆?」
確かに、クモ状血管腫は肝疾患との関連が指摘されています。だからこそ、お酒を飲む習慣のある方、健康診断で肝機能の数値を指摘されたことのある方は、特に不安になってしまうのです。
50代で仕事が忙しい男性の方、特に接待でお酒を飲む機会が多い方はよく受診されます。ある会社経営者の50代の方は毎日接待のため飲酒を続けており胸元に複数のクモ状血管腫を発見した時、「もう肝硬変になってしまったのか」と顔面蒼白になって受診されました。「家族に心配をかけたくない」「まだ働き続けなければならない」という責任感から、一人で抱え込んでしまっていたのです。
「見た目が恥ずかしい」という切実な悩み
「顔にあるから人目が気になって外出できない」「化粧で隠しきれない」「結婚式の写真に写ってしまう」
美容面での悩みも、決して軽いものではありません。特に接客業の方、人前に出るお仕事の方にとっては、深刻な問題です。
実は、あなたの不安の95%は不要なものです
真実をお伝えします
医師として、まず最初にお伝えしたいのは、クモ状血管腫の95%以上は全く心配のない良性の病変だということです。
がんでも、血液の病気でも、命に関わる病気でもありません。あなたが夜中に「もしかして…」と不安になっていたその心配は、ほとんどの場合、杞憂なのです。
なぜこんなに心配になってしまうのか
それは、正しい情報が不足しているからです。医学的な専門用語や、断片的な情報だけでは、不安は解消されません。逆に、「血管」「肝疾患」「治療が必要」といったキーワードが、あなたの不安を増幅させてしまっているのです。
あなたに知ってほしい安心できる事実
事実1:クモ状血管腫は血管の良性拡張です 中央の小さな動脈から放射状に毛細血管が広がっただけの、単純な血管の拡張現象です。「腫瘍」という名前がついていますが、がんとは全く別物です。
事実2:多くは女性ホルモンの影響です 妊娠中、授乳中、経口避妊薬の使用中など、女性ホルモンが多く分泌される時期に出現しやすく、ホルモンバランスが正常に戻れば自然に消失することも多いのです。
事実3:年齢による自然な変化でもあります 40歳を過ぎると、男女問わず血管の老化現象として現れることがあります。これは、白髪やしわと同じような、自然な加齢現象の一つなのです。
でも、「絶対に安全」とは言い切れません
ここで重要なのは、95%が安全だということは、5%は注意が必要だということです。医師として、この5%を見逃すわけにはいきません。
注意が必要なケース
多発性の場合 急に複数のクモ状血管腫が出現した場合、特に上半身に10個以上ある場合は、肝機能の詳細な検査が必要です。
急速に大きくなる場合 数週間で明らかに大きくなったり、数が急激に増えたりする場合は、何らかの全身的な変化が起きている可能性があります。
出血を繰り返す場合 軽く触れただけで出血する、自然に出血するような場合は、専門的な評価が必要です。
あなたにお勧めする、不安解消への3つのステップ
ステップ1:まずは深呼吸して、冷静になりましょう
パニックになっている時は、正しい判断ができません。「95%は心配ない」という事実を思い出してください。今すぐ命に関わる状況ではありません。
ステップ2:病変の状態を客観的に観察しましょう
以下のチェックポイントで、あなたの状況を整理してみてください:
数について
- 1〜2個程度 → ほぼ心配不要
- 3〜5個程度 → 経過観察で十分
- 10個以上 → 専門医の診察を推奨
大きさについて
- 直径5mm以下 → 典型的なサイズ
- 直径1cm以上 → やや大きめ、経過観察
出現時期について
- 妊娠中・授乳中に出現 → ホルモン関連の可能性大
- 40歳以降に徐々に出現 → 加齢による変化の可能性
- 急に複数出現 → 専門医相談を推奨
ステップ3:適切な医療機関を受診しましょう
皮膚科または内科での相談 美容クリニックではなく、まずは皮膚科や内科での相談をお勧めします。なぜなら、治療の前に正確な診断と、必要に応じて内科的な検査が重要だからです。
セカンドオピニオンの活用 「すぐに治療が必要」と言われた場合は、必ず他の医師の意見も聞いてください。多くの場合、治療は急を要するものではありません。
治療について知っておくべき真実
「治療しなければならない」という思い込みを捨てましょう
美容業界では、「早期治療が重要」「放置すると悪化する」といった情報が溢れていますが、医学的には正しくありません。
クモ状血管腫の治療は、美容上の希望がある場合にのみ検討されるものです。治療しなかったからといって、がんになったり、命に関わったりすることは絶対にありません。
治療を急かされた時の判断基準
もし治療を強く勧められた場合は、以下を確認してください:
- 「治療しないとどうなるのか」を具体的に聞く
- 「今すぐ治療が必要な理由」を医学的根拠とともに説明してもらう
- 治療のリスクや副作用について詳しく聞く
- 費用について明確な説明を受ける
これらの質問に対して、曖昧な回答しか得られない場合は、治療を急ぐ必要はないと考えてよいでしょう。
妊娠中の方への特別なアドバイス
妊娠中に出現したクモ状血管腫を心配されている方も多いでしょう。でも安心してください。
妊娠中の出現は極めて一般的です 妊娠中期から後期にかけて、エストロゲンの増加により、多くの妊婦さんにクモ状血管腫が出現します。これは正常な妊娠の変化の一つです。
産後に自然消失することがほとんどです 出産後6ヶ月から1年以内に、ホルモンレベルの正常化とともに自然に消失することが大部分です。
赤ちゃんへの影響は全くありません クモ状血管腫が赤ちゃんに影響することは絶対にありません。授乳にも全く問題ありません。
日常生活で気をつけるべきこと
過度な心配は不要ですが、以下に注意してください
紫外線対策 直接的な害はありませんが、紫外線により血管拡張が促進される可能性があります。日焼け止めの使用をお勧めします。
外傷を避ける 強くこすったり、引っ掻いたりすると出血することがあります。洗顔やメイク時は優しく扱ってください。
アルコールの適量化 多発する場合は、肝機能への配慮として、アルコールは適量に留めることをお勧めします。
定期的な観察 スマートフォンで写真を撮って記録しておくと、変化を客観的に把握できます。
経過観察のポイント
以下の変化があった場合は、医師に相談してください
緊急性は低いが相談した方が良い場合
- 新しいクモ状血管腫が短期間で複数出現した
- 大きさが明らかに大きくなった
- 色が濃くなったり、盛り上がりが強くなった
やや緊急性がある場合
- 軽く触れただけで出血する
- 自然に出血した
- 10個以上が短期間で出現した
定期検査を推奨する場合
- 多発している(5個以上)
- 家族にも類似の症状がある
- アルコール摂取量が多い
最後に:あなたの不安はあなただけではない!
循環器専門医として、これまで数千人のクモ状血管腫の患者さんを診察してきました。その中で学んだのは、正しい知識こそが最良の治療薬だということです。
最初に不安そうに受診された患者さんが、正しい説明を受けた後、安堵の表情を浮かべて帰っていかれる姿を何度も見てきました。先ほどご紹介したAさんも、「がんではない」と確認できた後は、以前の明るさを取り戻され、今では年に一度の経過観察で十分な状態です。
Bさんも、詳しい肝機能検査の結果、全く問題がないことがわかり、「家族に心配をかけずに済んだ」と安心されました。今では、適度な運動と禁酒により、既存のクモ状血管腫も小さくなっています。
あなたへのメッセージ
もしあなたが今、クモ状血管腫について不安を感じているなら、一人で悩まずに、まずは信頼できる医師に相談してください。そして、「すぐに治療が必要」と言われても、慌てずにセカンドオピニオンを求めることも大切です。
医学は確実に進歩していますが、変わらない真実があります。それは、患者さんの不安に寄り添い、正しい情報を提供し、最適な選択肢を一緒に考えることが医師の使命だということです。
あなたの今の不安は、きっと解消されます。そして、正しい知識を得ることで、より豊かで安心できる毎日を送ることができるはずです。
何か心配なことがあれば、いつでも医師に相談してください。私たち医療従事者は、あなたの健康と安心のために、いつでもサポートする準備ができています。
あなたの不安が一日も早く解消され、安心して毎日を過ごせることを心から願っています。
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