こんにちは、いつも当院の医療情報サイトをご覧いただきありがとうございます。
循環器専門医の執行です。
今回はこれから始まる新型コロナウイルスのワクチンについてです。
- 「高血圧があるけどうっても、問題ないのかな?」
- 「ワクチン打ったら遺伝子が書き換えられるって聞いたけど本当?」
- 「ワクチンを打ってコロナにかからないか不安なんだけど?」
こんな質問を外来で毎日たくさん頂きます。
新しいウイルスですしテレビであれだけ恐ろしく報道されたら本当にワクチンは大丈夫なのか?と不安になるのももっともです。
今回は循環器専門医の立場から高血圧や高脂血症などの慢性疾患を抱えている方が新型コロナウイルスのワクチンを接種してもよいかどうかというテーマでお話をさせてください。
まずそもそも新型コロナウイルスとはどういったものかをご説明します。
ウイルスは自分だけでは増えられないしすぐに死滅してまう脆弱な存在。人などの細胞内に寄生して初めて増殖ができる
まず、ウイルスに感染するにはコロナウイルスという表面にスパイク蛋白がついたものが人の細胞のACE2受容体という部分にくっついて細胞内に取り込まれることで感染が起こります。(上図②)
ウイルス自体では増えることが出来ませんし付着したウイルスも付着部位によりますが72時間程度で死滅することがわかっています。それくらい脆弱なものです。
しかしひとたび細胞内に感染すると細胞内で増殖して(上図③から⑦)一定の確率で症状が起こり、一定の確率で重症化場合によっては死亡します。
高齢者ほど重症化率や死亡率が高い。しかし全体では5人に1人は無症状で終わる
現在明らかになっている確率が
- 感染しても無症状な方が17~20パーセントと約5人に1人いることがわかっています。もちろん無症状であっても感染力はあります。
- 重症化する人の割合は 約1.6%(50歳代以下で0.3%、60歳代以上で8.5%)
- 死亡する人の割合は 約1.0%(50歳代以下で0.06%、60歳代以上で5.7%)となっています。
これが今回の高齢者優先接種の根拠です。
では続いてワクチンについての簡単なご説明をさせてください。
mRNAワクチンによって遺伝子を書き換えられたり、感染したりすることはないのでそんな心配はいりません。
そもそも今回のmRNAワクチンは何なのかの前に元々のワクチンについての説明が必要ですので簡単にご説明します。
ウイルスに対してのワクチンは昔から生ワクチンと不活化ワクチンがありました。
これらのワクチンは元々のウイルスを弱毒化もしくはばらばらにして不活化したものをいれています。しかしこれらのワクチンはそもそも病原体を弱毒化したり不活化ワクチンに用いる大量のウイルス増殖をさせるため両方ともとても時間がかかります。
今回のように大勢の人数にワクチンを供給するには途方もない時間がかかってしまいます。そのためmRNAワクチンという手法が今回は用いられました。ウイルス作ったり、弱毒化する必要がないため時間がかからず大量に多く作ることが出来てパンデミックの状況に非常に強いと言えます。
ここで良く訊かれる質問ですが、
「mRNAワクチンってなんですか?自分の遺伝子に影響を与えないのでしょうか?」
mRNAワクチンについて専門的な解説をすることはできませんが、mRNAワクチンについての解説が調べてもかなり分かりにくいので私の理解で分かりやすく説明をさせていただきたいと思います。
まず、ウイルスに感染するにはコロナウイルスという表面にスパイク蛋白がついたものが人の細胞のACE2受容体という部分にくっついて細胞内に取り込まれることで感染が起こります(先ほどの図②)。
ではそのスパイク蛋白に先にくっついておいてACE2受容体にくっつかないようにしようというのが今回のワクチンで作られる中和抗体です。
なおmRNAは自分の体内に残るの期間が10日程度と動物実験で確認されています。遺伝子が書き換えられるなどということはあり得ません。
何故ならDNAからRNAが作られてそこから蛋白が作られます。逆の経路はあり得ません。セントラルドグマといいます。高校生物で習いますね。
また感染するかもという恐れもないことがわかると思います。そもそもウイルスは入っていなくてウイルスの外を覆うスパイク蛋白の抗体を誘導するmRNAしか入っていないのに感染するわけがありませんよね?
ワクチンの有効性は?長期成績は分からないが150日程度の効果は95%、中和抗体は変異株に対しても90%以上作られている
現在3種類のワクチンが話題になっておりますが日本で接種が進んでいるのはファイザー社のものになるのでファイザー社でのものをご説明します。
接種したグループで18198人中8人の発症者数、一方で非接種では18325人中162人の発症者数となっています。
発生率が接種していないと0.87%で接種すると0.04%に低下します。ですので約20分の1の確率に低下するので有効率95%と言われています。
ですのでワクチンの有効率 95%というのは「95%の人には有効で、5%の人には効かない」 という意味ではありません。
かなり効果があると考えてもらって大丈夫だと思いますが本当にアジア人でこれだけの効果があるか分かっていませんし、150日という期間での報告ですのでこの効果が長期間保たれるかどうか分かりません。
けど変異株には効果あるの?
当然そのような疑問があると思います。先日横浜市立大学が日本人でのワクチン接種において変異株に対しても中和抗体ができていることを報告しました。2回接種でどの変異株に対しても90%をこえる中和抗体が産生されています。
一方でファイザーなどの海外での発表ではB.1.1.7変異(イギリス型)により中和活性が52%まで低下することが報告されています。また、B1.351変異(南アフリカ型)では中和活性は14%まで低下という報告があります。人種差によるものであるのか分かりませんが日本人では高率に中和抗体が産生されることがわかっています。
ウイルスの副反応は一般的なものはかなりの確率で起こるがすぐに回復する。アナフィラキシーの頻度は20万に1つときわめて少なく一般的な副反応と間違えないで。
副反応はそれなりの頻度で起こりますが、若年であればあるほど起こりやすいですし男性よりも女性で、1回目よりも2回目の方が起こりやすいことがわかっています。
いずれの副反応も2日目がピークで翌日には多くの方が改善します。ほとんどの方が1週間以内に改善することが報告されています。
では起こることですが
□注射部位の痛み、発赤または腫れ すべてのものを合わせると90%を超える方に起こります。1回目も2回目も大きく発生率は変わらず世代間差の報告はありません。
□倦怠感 2回目接種後にはなんと約70%の方にみられています。65歳以上では40%を下回っていますがそれでも多いです。
□頭痛や筋肉痛 2回目接種後では50%を超える方に起こっています。なお65歳以上では20%に限られます。
□発熱 2回目接種では40%の方に起こっています。筆者の知人も同様でしたが解熱剤を1つ内服してからは再発はないようです。なお65歳以上に限れば10%程度です。
繰り返しになりますが副反応は、2回目の接種後によく見られます。そして上記のようにそれなりに起こるけども数日で良くなることがわかっていますので焦らないでください。もしこれらの影響が数日以上続き日常生活に支障がでる場合や気になる場合、または腕の赤みや腫れが24時間後に悪化する場合は、接種した機関に連絡してください。
続いてアナフィラキシーに対する知識です。
ごくまれに、アナフィラキシーと呼ばれる重度の危険なアレルギー反応が発生することがあります。アナフィラキシーの確率は、ファイザーワクチンの約20万回の投与のうち、アナフィラキシーの報告はわずか1例でした(実数は994万3,247回の接種が行われたうち50例)。これらの70%以上は、注射が行われてから15分以内に発生しました。ですので予防接種後、院内で15分の待機時間があるのはこのためです。
20万回に1例とすると多いか少ないか分からないと思いますが歯医者での麻酔で10万回に1例と言われています。またハチにさされてアナフィラキシーを起こすことはご存じだと思いますが、今回のワクチンの1000倍の確率で起こします。
こう考えるとアナフィラキシーの危険性は0ではないけれども普段受けている治療や日常生活でハチにさされるリスクを恐れることに比べればわずかなものであると分かっていただけると思います。
アレルギー体質ですが ワクチンを接種しても大丈夫ですか?全然問題がありません
食品、ペット、ラテックスアレルギーなど、ワクチンに関係のないアレルギーがある場合はワクチンに対するアレルギーを起こすとは限らず新型コロナウイルスのワクチン接種を各国の感染症専門機関は推奨しています。
そもそもワクチンの中身はなんでしょうか?
添付文章をみると
▷有効成分
・トジナメラン(ヒトの細胞膜に結合する働きを持つスパイクタンパク質の全長体をコードするmRNA
▷添加物
・ALC-0315:[(4-ヒドロキシブチル)アザンジイル]ビス(ヘキサン-6,1-ジイル)ビス(2-ヘキシルデカン酸エステル)
・ALC-0159:2-[(ポリエチレングリコール)-2000]-N,N-ジテトラデシルアセトアミド
・DSPC:1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン
・コレステロール
・塩化カリウム
・リン酸二水素カリウム
・塩化ナトリウム
・リン酸水素ナトリウム二水和物
・精製白糖
と書かれています。要約するとmRNAとそれを安定させるための蛋白、体内で免疫応答をさせやすくする成分、他は食品などに入っているものです。
もちろん水銀はおろかチップが入っているなんてことはありません。
この時にアレルギーの原因として考えられているのがPEGという蛋白です。PEG自体は化粧品や歯磨き粉にも入っていて日常生活で触れている物質になります。それに対するアレルギーがある方、ほとんどの方は今までなくても急に発生するといわれていますので反応してしまった方はワクチンを接種することができません。
ですので金属アレルギーがあろうが、花粉症があろうが、あなたが100%大丈夫という保証はありませんが他の方とリスクは同じです。
アレルギー体質だからという理由で接種を見合わせる必要はありません。
ではようやくワクチンに関しての概要をお伝え出来たと思いますので慢性疾患がある方はどうすればよいか?という質問への回答をしていきます。ここまでお読みくださった方はお分かりだと思いますが、
高血圧患者さんなどの慢性疾患があるからこそワクチンを打った方がよい
ワクチンのリスクは先ほどのアレルギー反応ですので高血圧があろうがなかろうがアレルギー反応のリスクは他の方と一緒です。ワクチンを打つことで新型コロナウイルスに感染することはないことを先ほど説明しました。
一方で慢性疾患がある方は新型コロナウイルスに感染すると重症化する確率が病気がない人に比べて数倍高いという報告があります。
ですので打つリスクは他の方と一緒で打つことで得られるメリットは数倍あると考えられます。
高血圧の薬を飲んでいたらコロナにかかりやすい、ワクチンのときに危険だと聞いたけど本当?一切そんなことはありません。高血圧をしっかりと管理していることの方がもっと大切です。
一部報道で血圧の薬を服用すると新型コロナウイルスに感染するリスクが高まりまるという報道がでたためこのような疑問をお持ちの方がいらっしゃいます。
新型コロナウイルス感染症の流行初期に、一部メディアは、ACE阻害薬などの特定の血圧薬を服用することについて懸念があると報道していました。これらの薬は、肺細胞のACE2受容体を変化させ、コロナウイルスにかかりやすくする可能性があると考えられていたためです 。しかし、そういった事実がないことが証明されています。 ACE阻害薬、またはARBやβ遮断薬などの別の降圧薬を服用している場合は、医師からの指示がない限り、服用を継続したほうがよいです。
またβ遮断薬を内服しているとアナフィラキシーになったときの対応がアドレナリンが効かないから止めた方がよいと言っている方もいますが、今回のアナフィラキシーの確率は20万に1人です。他で使用されている例えば歯医者での麻酔は10万に1人ですが止めませんよね?
かりにアナフィラキシーになってもグルカゴンなどの別薬剤で対応されます。ハチに刺された人がβ遮断薬を飲んでいたらおしまいかというとそうではないことからお分かりいただけると思います。
むしろ高血圧や高脂血症での治療をしっかりと受けてご自分の血管が少しでも良い状態を保てているかが大切です。
うまくコントロールされていない、もしくは治療されていない高血圧などの慢性疾患の患者が新型コロナウイルス感染で重症化しやすいことがわかっています。
ではうまくコントロールされているというのはどういうことでしょうか?
血圧の数字が良いから、コレステロールの数字が良いから大丈夫と思われている方も多いかもしれませんが、実は治療の本質は別のところにあります。
詳しくはこちらをご覧下さい。
今回の新型コロナウイルス感染では血栓発生の報告が複数されています。かねてから申し上げているように血管が痛んでいれば傷んでいるほど血栓もできやすいので血管が現在どういう状態か是非把握しながら治療を進めてください。数字だけ見ていては足元をすくわれることが結構ありますから。是非主治医の先生に血管を評価してもらうようにお願いしてください。
まとめ
高齢者ほど重症化しやすいのが新型コロナウイルス感染の特徴です。
しかしワクチンによって感染を95%減らせることが分かっています。
ワクチンの副反応はそれなりの確率で起こりますが高齢者であるほど起こりにくく、アナフィラキシーと言われる危険な副作用の確率は歯医者の麻酔の半分で20万に1人とかなり安全に受けられます。
変異型ウイルスへの日本人での中和抗体産生も確認されてきており効果はかなり高そうです。
高血圧などの慢性疾患がある方は重症化リスクが他の方に比べて高いのでより一層ワクチンを接種したほうがよさそうです。
ワクチン接種や新型コロナウイルス感染に悪影響を及ぼすお薬はあまり気にしなくてよさそうです。
薬を飲んでコントロールがよい慢性疾患の方の方が重症化しにくいですのでしっかりと薬は続けましょう。
しかしコントロールがよいというのは一体どういうことなのかを一度考えてください。血圧の数字や血液検査の数字だけでは本質が見えません。
是非一度血管を評価してもらってください。
以上
この記事を書いた医師
Dr. 執行 秀彌(しぎょうひでや)
しぎょう循環器内科・内科・皮膚科・アレルギー科 院長
日本内科学会認定内科医・総合内科専門医
日本循環器学会認定循環器専門医
大阪市立大学医学部を卒業後
国立循環器病研究センター病院や住友病院等を経て2020年4月に開業
最寄駅:JR立花駅(徒歩20分)および尼崎センタープール前駅(徒歩10分)