健康診断の心雑音と診断されると、「どこか悪いの?」「私の心臓は病気なの?」と不安を感じると思います。
心雑音とは、一体どのような状態なのでしょうか?
この記事では、心雑音が見つかった場合に何の病気の可能性があるのか、また考えられる疾患の治療法や検査についてご紹介します。
心雑音には無症状でも大きな病気が隠れている可能性もあるので、健康診断や人間ドックで定期的に検査を受けて早期発見することが大切です。
なお、循環器専門医の診察を受けることが本当に大切ですので是非受診をする前に循環器専門医が在籍していることを確認してください。
心雑音とは
あなたは健康診断で全然困っていないのに心雑音を指摘されて困惑したことはありませんか?
なにか心臓が悪いの?とご不安になるのはもっともだと思います。実は無症状でも心臓に負担がかかる病気を抱えている方がいます。
そういった病気を早期発見して日常生活を守るための健診での心雑音聴取は大切です。
しかし心雑音があったから即病気という訳ではなく本日は心雑音について患者さん目線でご説明を出来ればと思います。
まず、大前提として心雑音は何種類もありその聴取は専門医でも間違ってしまうことがあるくらい難しいです。私自身も専門医ですが心雑音を聴取して思っていた病気と違ったこともあります。また心雑音も体調によって出現消失するものもあり、健診で指摘されても病気ではないという事もあります。
しかし実際、心雑音で早期に心臓病が発見できることもあるので指摘されたらめんどくさがらずに循環器専門医を受診して頂くことが大切です。
さて、そもそも心雑音とは心臓が動くときに弁の開閉や血液の駆出が行われておりそれに伴い心音が発生します。しかしその正常心音とは違うものが聴取されるのが心雑音となります。
例えば弁が狭くなっている、弁が上手く閉まらず逆流してしまっている。本来は穴がないところに穴がありそこを通過している。あるいは心臓の収縮のタイミングが左右でずれてしまい左右の弁の閉鎖のタイミングが合わない、とてつもなく沢山の血液を処理しているので心臓の中に血液が流入する際に音がする。
では実際その心雑音で問題がある方はどれくらいいるのでしょうか?
あなたの現在の年齢によって大きく異なるので明確にお答えできませんが、子供の心雑音は3人に1人という高確率で見つけられその殆どが無害性雑音(機能性雑音)といって大人になれば消えてしまう心雑音が多いです。
一方で大人になってからの場合は無害性心雑音は減少し、妊娠中や貧血、甲状腺亢進症、発熱など心臓が普段よりも多量の体液を処理する必要がある状況で起こることが分かっています。
※貧血は血が少ないのに何故多量の体液?と思われると思いますが、貧血はヘモグロビンと言って血液の濃度によって定義されるので貧血になると量が減る訳でなく濃度が減り必要な酸素や栄養を運ぶのにより多くの体液の運搬が必要になるためです。
では実際どのような病気が考えられるのでしょうか?今から多い疾患を解説していきます。
先天性心疾患による心雑音
動脈管開存症
動脈管開存症とは、胎児のときに心臓と肺の間にある血管(動脈管)が、生まれた後も閉じずに開いたままの状態の先天性心疾患のことです。
通常、赤ちゃんは母体内にいるときは肺での呼吸をしていないので、動脈管を通って肺へ行く血液の量は少なくて済みます。しかし、生まれた後は肺で呼吸を始めるので、この動脈管は閉じて血液が肺に流れるようになる必要があります。
動脈管開存症の場合、この動脈管が閉じずに開いたままになってしまうため、次のような症状が出る可能性があります。
- – 動脈管を通って大量の血液が肺に流れ込むため、呼吸困難になる
- – 心臓が過剰に働かされるため、肺水腫や心不全になりやすい
- – 大きな動脈管開存症では、心雑音が聞こえる
動脈管開存症の治療は、最初は薬物治療で動脈管を閉じようと試みますが、効果がない場合は手術やカテーテル治療で動脈管を閉じる必要があります。
早期発見・治療が大切で、手術で動脈管を閉じれば後遺症なく健康な生活ができるようになります。定期的な健診で発見されることが多い疾患です。
心房中隔欠損症
心臓には4つの部屋があり、上の2つが心房、下の2つが心室と呼ばれています。心房の中には、左右を仕切る心房中隔という壁があります。
心房中隔欠損症とは、この心房中隔に穴が開いている、または一部がない状態の先天性心疾患のことです。
正常な心臓では、体の動脈から戻ってきた静脈血は右心房に入り、肺動脈を通って肺に行きます。一方、肺から戻ってきた動脈血は左心房に入り、大動脈を通って全身に送り出されます。
しかし、心房中隔欠損症があると、静脈血と動脈血が心房の中で混ざり合ってしまいます。その結果、次のような症状が出る可能性があります。
- – 動脈血の酸素濃度が下がり、全身に酸素が十分に行き渡らない
- – 右心室への血液の流入が増え、肺動脈に負担がかかる
- – 心臓が過剰に働かされ、心不全になりやすい
- – 大きな欠損では心雑音が聞こえる
比較的大きな欠損では、手術で穴を閉じる必要があります。手術をすれば、後遺症なく健康に過ごせるようになります。
穴が小さければ、経過観察で様子を見ながら、状況に応じて手術の要否を判断します。
定期健診で発見されることが多い先天性心疾患です。早期発見・治療が大切です。
心室中隔欠損症
心臓の下の2つの部屋が心室と呼ばれ、その左右を仕切る壁のことを心室中隔といいます。
心室中隔欠損症とは、この心室中隔に穴が開いている、または一部がない状態の先天性心疾患のことです。
正常な心臓では、体の静脈血は右心室に入り肺に行き、肺から戻った動脈血は左心室に入り全身に送り出されます。しかし、心室中隔欠損症があると、静脈血と動脈血が心室の中で混ざり合ってしまいます。
その結果、次のような症状が出る可能性があります。
- – 動脈血の酸素濃度が下がり、全身に酸素が十分に行き渡らない
- – 右心室への血液の流入が増え、肺動脈に負担がかかる
- – 心臓が過剰に働かされ、心不全になりやすい
- – 大きな欠損では心雑音が聞こえる
比較的大きな欠損では、手術で穴を閉じる必要があります。手術をすれば、後遺症なく健康に過ごせるようになります。
穴が小さければ、経過観察しながら、状況に応じて手術の要否を判断します。
心室中隔欠損症も、定期健診で発見されることが多い先天性心疾患です。早期発見・治療が大切となります。
閑話休題
これ以降は弁膜症といって心臓の弁が原因で心雑音が起こる物の解説になります。イメージが付きづらいと思いますが心臓の解剖をイラストで載せておきますのでこちらをご覧いただき疾患解説をお読みいただければ幸いです。
極論になりますが弁膜症は弁が狭いことで血液の流れが阻害されているかあるいは折角送り出した血液がまた戻ってきてしまう逆流(閉鎖不全症)になります。どこの弁が狭いのかあるいは逆流しているのかという目でこの画像と照らし合わせながら解説をお読みください。
肺動脈弁狭窄症
肺動脈弁は、心臓の右側から肺へ向かう肺動脈の入り口にある弁のことです。この弁が狭くなってしまう先天性の疾患を肺動脈弁狭窄症といいます。
正常な心臓では、静脈血が右心房→右心室と流れ、肺動脈弁を通って肺動脈へ送り出されます。しかし、肺動脈弁狭窄症ではこの弁が狭くなっているため、以下のような症状が出る可能性があります。
- – 右心室から肺への血液の流れが悪くなる
- – 右心室が過剰に働いて拡張し、ポンプ機能が低下する
- – 重症化すると肺水腫や心不全を起こしやすくなる
- – 狭窄が高度な場合、心雑音が聞こえる
軽症であれば経過観察ですが、症状が進行する場合は手術で狭窄部位を広げる治療が必要になります。
手術方法には、開心術で狭窄部を切開して広げる方法と、カテーテル手技で弁を広げる方法があります。
適切な時期に治療を受ければ、ほとんどの患者さんは後遺症なく健康的に生活できるようになります。
定期的な健診で発見されることが多い先天性心疾患の一つです。早期発見と適切な対応が重要になってきます。
大動脈弁狭窄症
大動脈弁は、心臓の左側から全身へ血液を送り出す大動脈の入り口にある弁です。この大動脈弁が狭くなってしまう先天性の疾患を大動脈弁狭窄症といいます。
正常な心臓では、肺から戻ってきた動脈血が左心房→左心室と流れ、大動脈弁を通って大動脈へ送り出されます。しかし、大動脈弁狭窄症ではこの弁が狭くなっているため、次のような症状が出る可能性があります。
- – 左心室から全身への血液の流れが悪くなる
- – 左心室が過剰に働いて拡張し、ポンプ機能が低下する
- – 重症化すると全身への血流不足から、めまい、失神などを起こしやすくなる
- – 狭窄が高度な場合、心雑音が聞こえる
軽症であれば経過観察されますが、症状が進行する場合は手術で狭窄部位を広げる治療が必要になります。
手術方法には、開心術で狭窄部を切開して広げる方法と、カテーテル手技で弁を広げる方法があります。
適切な時期に治療を受ければ、ほとんどの患者さんは後遺症なく健康的に生活できるようになります。
定期的な健診で発見されることが多い先天性心疾患の一つです。早期発見と適切な対応が重要となってきます。
後天性心疾患による心雑音
大動脈弁狭窄症
後天性の大動脈弁狭窄症は、先ほどの先天性とは違い加齢による石灰化などで大動脈弁が次第に狭くなる疾患です。弁が狭窄すると、左心室から大動脈へ血液を送り出すのが困難になります。
主な症状としては:
- – 労作時の呼吸困難
- – 疲労感
- – 胸痛
- – めまい
- – 失神発作
狭窄が進行すると、心不全や不整脈などの合併症を引き起こす可能性があります。
また、大動脈弁狭窄症では、しばしば心雑音が聞かれます。これは、狭くなった弁を血液が通過する際の乱流によって生じる雑音です。重症度が高くなるほど雑音は大きくなります。
放置すると症状は徐々に悪化し、重症化すると予後は不良となります。中等症以上では、3年生存率が35%程度と報告されています。
一方、適切なタイミングで大動脈弁置換術を受ければ、手術リスクを除けば予後は良好です。手術により症状は改善し、生存率も正常に近づきます。
外科的大動脈弁置換術
経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)
定期的な心臓検診で心雑音が指摘されれば、専門医の診察を受けることが推奨されます
大動脈弁閉鎖不全症
大動脈弁閉鎖不全症とは、大動脈弁の構造的異常や機能不全により、左心室から大動脈へ送り出された血液が、逆流して左心室へ戻ってしまう病態です。
原因としては、以下のようなものがあげられます。
– 感染症(リウマチ熱など)による弁膜症
– 動脈硬化や変性による弁の硬化
– 心筋症や心筋梗塞後の左心室拡大による弁輪拡大
– 外傷性の弁損傷
主な症状は以下の通りです。
- – 呼吸困難
- – 易疲労感
- – 心雑音(収縮期雑音)
- – 重症化すると心不全症状
心エコー図検査で逆流の程度が評価され、中等度以上の逆流では手術が必要とされます。
手術は、大動脈弁置換術が一般的で、生体弁または機械弁を使用します。
放置すると徐々に症状が進行し、最終的には心不全に陥ります。重症例では予後不良とされ、5年生存率は約50%と報告されています。
一方、適切なタイミングで手術を受ければ、症状は改善し、予後は良好になります。定期的な心臓検診で心雑音が指摘された場合は、専門医の精査を受けることが推奨されます。
僧帽弁狭窄症
僧帽弁は、左心房と左心室の間にある弁です。僧帽弁狭窄症とは、この弁が狭くなり、左心室への血液の流入が妨げられる病態です。
後天的な原因としては、リウマチ熱による弁膜症が最も多く、つぎにリウマチ性心疾患以外の石灰化などによる変性が挙げられます。
主な症状は以下の通りです。
- – 運動時の呼吸困難
- – 易疲労感
- – 開口期雑音(収縮期雑音が合併することも)
- – 重症化すると肺うっ血、心不全を生じる
重症度は、心エコー検査で評価されます。有症状例や肺うっ血を伴う中等症以上の症例では、外科的僧帽弁置換術が推奨されています。
手術により症状は改善し、予後が大幅に改善します。重症例で放置された場合、5年生存率は約15%と不良です。一方、手術を受ければ、10年生存率は70%近くまで回復します。
手術が高リスクな症例に対しては、経カテーテル的僧帽弁バルーン形成術(PTMC)も選択肢となりますが、外科手術ほど根治的ではありません。
・PTMCの初期成功率は約90%と高いですが、8年で約7割の症例で再狭窄を来します。一方、僧帽弁置換術(生体弁使用)では、10年で約90%の症例で再手術を要しません。つまり、PTMCは低侵襲ですが再狭窄のリスクが高く、置換術の方が根治性に優れています。ただし、PTMCの方が手術に比べて早期合併症リスクは低いとされています。そのため、現在のガイドラインでは高齢者や手術リスクの高い症例にはPTMCが推奨され、比較的若年で手術リスクが許容できる症例には僧帽弁置換術が推奨されています。
いずれにせよ定期的な心エコー検査で重症化する前に発見され、適切な時期に治療を受けることが重要です。
僧帽弁閉鎖不全症
僧帽弁閉鎖不全症とは、僧帽弁の構造的異常や機能不全により、左心室から左心房へ血液が逆流する病態です。
– 虚血性心疾患(心筋梗塞後の左心室の拡大など)
– 心筋症や弁膜症
– 感染性心内膜炎
– 外傷性の弁損傷 など
主症状
- – 呼吸困難
- – 易疲労感
- – 収縮期雑音
- – 重症化すると肺うっ血、心不全症状
重症度は心エコー図で評価され、有症状や肺うっ血を伴う中等度以上の逆流では、外科的治療が推奨されます。
– 僧帽弁形成術(弁輪縫縮、人工腱索形成など)
– 僧帽弁置換術(機械弁または生体弁)
※可能な限り弁形成術が選択されますが、弁置換術も必要な症例があります。
治療時期を逸すると、心不全が進行し、予後は不良となります。5年生存率は20%程度との報告があります。一方、適切な時期に手術を受ければ予後は良好となります。
最近では、高リスク症例に対する低侵襲治療として、経カテーテル的僧帽弁形成術(MitraClipなど)も選択肢となっています。
心筋症
心筋症とは、心筋(心臓の筋肉)の異常により、心臓の構造や機能が損なわれる疾患群です。主な種類として拡張型心筋症、肥大型心筋症、拘束型心筋症などがあります。
心筋症が進行すると、以下のようなメカニズムで心雑音が生じる可能性があります。
心室の拡大や変形
心室が拡大したり変形すると、心室中隔や乳頭筋の位置が変わり、弁尖と弁輪の間に狭窄や逆流が生じやすくなります。これにより収縮期雑音や拡張期雑音が聞こえる場合があります。
弁尖の動きの異常
心筋症で心室が変形すると、乳頭筋や腱索の走行が変わり、弁尖の開閉動作が正常に行われなくなることがあります。これにより弁閉鎖不全や弁狭窄が起こり、雑音の原因となります。
肺高血圧症の合併
一部の心筋症では肺高血圧症を合併し、これにより肺動脈弁や三尖弁の逆流、狭窄が生じて心雑音が出現することがあります。
特に重症の心筋症では、複数の弁に異常をきたしやすく、収縮期・拡張期を問わず多様な心雑音が聞かれる可能性があります。
心雑音の原因が心筋症であれば、根本的な治療として心臓移植も選択肢になってくるでしょう。定期的な心エコー検査で状態を評価し、適切な時期に治療介入することが重要になってきます。
診断アプローチ
これらの心疾患を的確に診断するためには、以下の検査が重要となります。
1. 問診・身体所見
– 症状(呼吸困難、動悸、浮腫など)の有無を問診で確認
– 心雑音の有無、部位、性状を聴診で評価
2. 心電図検査
– 不整脈の有無、心筋虚血や肥大の所見を評価
3. 胸部X線検査
– 肺うっ血や心拡大の有無を評価
4. 心エコー図検査
– 心臓の構造や機能、弁の異常やシャント血流の有無を詳細に評価できる
– 弁膜症や先天性心疾患、心筋症など、ほとんどの心疾患の診断に必須
5. 心臓カテーテル検査
– 心室や大血管内の圧力や酸素飽和度を直接測定
– シャント率の定量的評価が可能
– 冠動脈造影で虚血性心疾患の合併を評価
6. 運動負荷試験
– 潜在的な虚血や機能異常を顕在化させる目的で実施
7. CT検査、MRI検査
– 心臓や大血管の詳細な構造評価に有用
– MRIでは心機能評価も可能
上記の検査を組み合わせて総合的に評価することで、心雑音の原因となる心疾患を正確に同定することができます。特に心エコー図検査は、非侵襲的で詳細な情報が得られるため、第一選択となる重要な検査です。
つまり心雑音を指摘されたら循環器専門医の外来を受診する事が必須であることが分かると思います。
まとめ
心雑音は先天性心疾患や後天性心疾患の様々な疾患で生じる可能性があり、適切な診断と治療が重要です。
先天性心疾患としては、動脈管開存症、心房中隔欠損症、心室中隔欠損症、肺動脈弁狭窄症、大動脈弁狭窄症などがあげられます。いずれも早期発見と外科的あるいはカテーテル治療により良好な予後が期待できます。
一方、後天性疾患では、加齢による弁膜症(大動脈弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症、僧帽弁狭窄症、僧帽弁閉鎖不全症)や心筋症が原因で心雑音がみられます。弁膜症は中等度以上の重症例で外科的弁置換術やカテーテル治療が必要となり、心筋症では心不全進行に伴い複数の弁異常が生じる可能性があり、最終的には心臓移植も選択肢になります。
心雑音を指摘された場合は、問診・身体所見、心電図、胸部X線などの初期検査に加え、心エコー図検査が非常に重要となります。心エコー図で詳細な評価を行った上で、必要に応じてカテーテル検査、CT/MRIなどの精査を追加して、心雑音の原因となる心疾患を同定する必要があります。
早期発見と適切な診断、治療介入が予後改善に不可欠であり、定期的な健診での心雑音指摘後は、速やかに循環器専門医の精査を受けることが推奨されます。
以上
参考文献
- 米国心臓病学会(AHA/ACC)ガイドライン
- 欧州心臓病学会(ESC)ガイドライン
- 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(日本循環器学会)