こんにちは、循環器専門医の執行です。
循環器の外来を行っていると患者さんに様々な質問をしてもらえます。
医師としては当たり前と思っていて特に説明していないことで実は不安になっていたり、説明についてこれてなかったりと、どれだけ医師をしていても患者さん目線の説明が出来ていないときは反省をする試行錯誤の診療は続きます。
その中でもよく聞かれるのが、
「この薬と一緒に食べたらダメなものを教えてください」
「グレープフルーツはダメっていわれたけどみかん系食べたらダメなの?」
と薬と食べ物の食べ合わせについてです。
そこで、本日は食べたらダメな食べ物と薬の関係、なぜダメなのかを簡単に伝えられればと思います。
まず結論から。
ワーファリン®(ワルファリンカリウム)を飲んでいる方は納豆、クロレラ、青汁は控えたほうがよい。
グレープフルーツが禁止と書いている薬は食べると効きすぎる恐れがある。他に食べてはいけないのはパール柑、サワーポメロ、スウィーティー、メロゴールド、レッドポメロ、ダイダイ ブンタン、ハッサク、バンペイユ、メキシカンライム、夏ミカン、サンポウカン
ワーファリンはビタミンKの拮抗剤、ビタミンKが豊富なものを食べると効果が出ない。
解説します。ワーファリンを内服している方のすべての方が納豆など全く食べてはダメという訳ではありません。ですが一部の人は食べてはダメだと言えるのでそちらをまず解説したいと思います。
そもそも何故あなたはワーファリンを飲んでいるのか?という問題です。
ワーファリンは体内で血液凝固が起こり血栓という血の塊ができやすい方の予防目的に出されています。体内で血栓ができてしまうと、その血栓が血管を詰まらせてしまったときに脳梗塞やエコノミークラス症候群など突然大変な事になってしまうからです。
そこで凝固をしにくくする抗凝固薬としてワーファリンをはじめ様々な薬があります。抗凝固薬としてワーファリン、エリキュース、イグザレルト、リクシアナ、プラザキサなどがあります。分かりにくくなってきたのでワーファリンとそれ以外で結構です。
ワーファリンは抗凝固作用をだすのにビタミンKに働きかけますがそれ以外は直接的に抗凝固作用をもたらします。そのため直接的抗凝固薬=DOAC(direct anticoagulant)といわれます。
直接的に作用するのでワーファリンのようにビタミンKに気を配る必要がありません。ですので納豆もクロレラも食べ放題です。
ではなぜ、ワーファリンが残っているかという問題ですが、理由は3+αです。
- 心臓弁置換術をして機械弁が植え込まれている
- 僧帽弁狭窄症を合併した心房細動に対する脳梗塞予防の目的
- 日々の薬のお金が高くて、なるべく安くしたいというリクエストがある
+α医師が単純にDOACを使い慣れていないのでワーファリンを使用している
あなたが1,2,3に当てはまらないでワーファリンを使用していて納豆や青汁など日々の制限をされるのがいやだなと思われているのであればDOACに替えてもらいましょう。
しかし1,2の方は本当にワーファリンの効果が大切なので食べないようにしてください。ワーファリンの効果が落ちてしまうと脳梗塞リスクが急激に上がってしまいますので。
3だけの方は出来るならDOACに替えてから納豆を食べてほしいですが、お金が気になる・・・という場合は食べる量を少量で安定させて採血を多めにしてもらえれば良いかもしれません。しかし採血の回数が増えると結局お金がかかってしまうので、安全性を考えるとDOACかなと個人的に思います。
グレープフルーツは薬の分解酵素を壊してしまい薬の濃度を上げてしまう。効きすぎたら副作用が増えるので注意が必要。
解説します。薬を飲むと胃で分解されて小腸で吸収されます。小腸の一番外側(薬の触れる部分)にCYP3A4という薬の分解酵素があり一部が分解されて効果が出ないようになっています。
そのCYP3A4を壊すのがグレープフルーツに含まれるフラノクマリン類です。一度壊すと、新たにできるのに3~4日かかります。壊れると本来分解されていた薬も分解されずに吸収されるので意図した量よりも多く飲んでいる状態になります。
CYP3A4で分解される薬はたくさんあります。もしかしたら自分の飲んでいる薬も?と思われるかもしれませんが薬局で薬をもらえば説明書にグレープフルーツを避けるように書かれているのでそれが書かれてなければOKです。
そしてフラノクマリン類が含まれている柑橘類も下に表を載せますがたくさんありすぎて覚えられませんね。
●食べてはいけないものはパール柑、サワーポメロ、スウィーティー、メロゴールド、レッドポメロ、ダイダイ ブンタン、ハッサク、バンペイユ、メキシカンライム、夏ミカン、サンポウカン
含有量が1.44 μg/mlより少ないものは少量であればあまり影響はないので、
●少し食べてよいものは、ネーブルオレンジ、ポンカン、イヨカン、ユズ、カボス、スダチ、キンカン
●全く気にせず食べられるのはデコポンと温州ミカンになります。
グレープフルーツなど免疫抑制剤、抗血小板剤、抗不整脈薬、ホルモン製剤を飲んでいる方は避けていただいた方が安全です。
それならほとんど食べられないじゃないかと言われるのでここからは僕の私見も踏まえての意見です。免疫抑制剤、抗血小板剤、抗不整脈薬、ホルモン製剤を飲んでいる方は避けていただいた方が安全です。なぜなら薬が効きすぎると取り返しがつかない副作用が起こりえるからです。
とはいっても、グレープフルーツによる血中濃度の上昇はこれまで多数報告されていますが実際に事故になった報告は発売中止になった抗アレルギー薬のみで他は血圧が少しだけ下がったなどだけというのも事実です。
ですので他の薬では少しくらい食べても良いと僕自身は考えています。その食べた状況で薬を調整してくれる専門医にかかっていれば安全かつ制限のない生活を送れるのではないかと思っています。
まとめ
納豆が禁止された方はワーファリンを何故飲んでいるのかを知ろう。機械弁の手術後や僧帽弁狭窄症に心房細動を合併している方は効果が弱くなると脳梗塞になるリスクが高くなるので絶対に避けよう。それ以外の方は出来たらDOACに替えてから気にせずに納豆などをビタミンK食品を楽しもう。
グレープフルーツ類は多岐にわたる。一概には言えないが命に関わる副作用がでないように免疫抑制剤、抗血小板剤、抗不整脈薬、ホルモン製剤を飲んでいる方は避けたほうが無難。
他は少しくらいフラノクマリン類が入っていても調整をすればよいので専門医に相談しながら薬の調整をしてもらおう。
以上
参考文献
Saita T et al. Screening of furanocoumarin derivatives in foods and crude drugs by enzyme-linked immunosorbent assay. Jpn. J. Pharm. Health Care Sci. 2006; 32: 693-699.
JCS/JATS/JSVS/JSCS 2020 Guideline on the Management of Valvular Heart Disease
JCS/JHRS 2020 Guideline on Pharmacotherapy of Cardiac Arrhythmias
この記事を書いた医師
執行 秀彌(しぎょうひでや)
しぎょう循環器内科・内科・皮膚科・アレルギー科 院長
日本内科学会認定内科医・総合内科専門医
日本循環器学会認定循環器専門医
大阪市立大学医学部を卒業後
国立循環器病研究センター病院や住友病院等を経て2020年4月に開業
最寄駅:JR立花駅(徒歩20分)および尼崎センタープール前駅(徒歩10分)