

気づかないうちに進行する“静かな病気”
- 「最近、やたらとのどが渇く」
- 「夜中に何度もトイレに起きる」
- 「疲れやすくて体が重い」
そんなささいな体調の変化を感じていませんか?
これらは、糖尿病の初期症状としてよく見られるものです。
糖尿病は「沈黙の病気」とも呼ばれ、自覚症状が乏しいまま進行するのが特徴です。実際、健康診断などで「血糖値が高い」と指摘されて初めて気づく方が多く、放っておくと深刻な合併症につながることもあります。
けれど、心配しすぎる必要はありません。糖尿病は早期に気づいて適切な対処をすれば、進行を抑え、合併症を防ぐことができる病気です。何より大切なのは、体からの「小さなサイン」に気づき、今できる行動を取ることです。
不安を抱えるのは、あなただけではありません
「糖尿病と診断されたら、もう一生薬が必要なの?」
「インスリン注射を始めることになるのでは?」
「食事が極端に制限されるのでは?」
こうした疑問や不安は、患者さんにとって自然なものです。
私自身、糖尿病を専門に40年近く診療を続けてきましたが、「まさか自分が糖尿病になるとは思わなかった」とおっしゃる方に何千人とお会いしてきました。
特に最初の診断直後は、患者さんの多くが混乱し、必要以上に不安を感じておられます。
けれど、正しい知識を身につけ、専門医のサポートを受けながら生活を見直していくうちに、「病気とうまく付き合える」ようになっていく方が本当にたくさんいます。
「放置しない」ことが何よりの対策です
糖尿病の怖さは、症状がほとんどないまま全身の(血管や神経)臓器にダメージが進んでいくことにあります。
特に注意すべきなのが、以下のような合併症です:
- 糖尿病性腎症:進行すると人工透析が必要になることもあります
- 糖尿病性網膜症:視力が低下し、失明の原因となることもあります
- 糖尿病性神経障害:足の痺れや痛み、感覚鈍麻、足の潰瘍や壊疽につながることもあります
- 糖尿病性大血管症:動脈硬化の促進で心筋梗塞や脳梗塞のリスクが大幅に上がります
私が担当した60代の男性の患者さんは、「忙しくて病院に行けなかった」と何年も放置していた結果、腎機能が大きく低下してしまいました。「もっと早く受診していれば」と何度もおっしゃっていました。
糖尿病は、早期に気づいて対応すれば、ここまで進まずに済む病気です。
自分でできるチェックと最初の一歩
次のような症状がある方は、血糖値の異常が隠れている可能性があります:
- 水分をたくさんとっても、のどが渇く
- トイレの回数が多くなる(特に夜間)
- 食べても体重が減る
- 体がだるい、疲れやすい
- 手足のしびれや違和感がある
- 傷が治りにくい
- 視界がかすむ、ぼやける
これらはあくまで一例です。症状があってもなくても、定期的な血液検査を受けることがとても非常に大切です。
手元に健康診断の結果がある方は、以下の数値を確認してみてください:
空腹時血糖値
110mg/dL以上 → 要注意、
126mg/dL以上 → 糖尿病の可能性
HbA1c(ヘモグロビンA1cエーワンシー)
5.6%以上 → 境界型糖尿病の可能性
6.5%以上 → 糖尿病の可能性
少しでも基準を超えていれば、一度専門医に相談することを強くおすすめします。
私が診察室で患者さんに伝えていること
初めて糖尿病と診断された方には、私はいつもこうお伝えしています。
「糖尿病は“終わりの始まり”ではありません。ここからが“スタート”です。きちんと向き合えば、怖くありません」
実際、治療や生活改善に真剣に取り組まれた多くの方が、数ヶ月後には血糖値が改善し、以前よりも元気に過ごされています。
大切なのは、「一人で抱え込まないこと」。糖尿病は生活習慣や環境にも影響を受けやすい病気です。
ですから、医師や管理栄養士さん看護師さん方とチームで一緒に取り組むことがとても大事です。
まずは、ご自身の健康を知るための第一歩を
「まだ症状もないし大丈夫」と思っている方ほど、実は血糖値がじわじわと上昇していることがあります。
35歳を過ぎたら、一度は血糖値やHbA1cを調べておくことをおすすめします。
糖尿病の検査は、採血だけの簡単なもので、痛みも少なく、10分もかからずに終わります。そして、その数値があなたの未来を守るきっかけになるかもしれません。
「気になっていたけれど、今まで放置していた」
「症状はないけれど、少し心配になってきた」
――そんなあなたこそ、今が動き出すチャンスです。
最後に:迷ったときは、どうか一度ご相談ください
もしこの記事を読んで「少しでも不安がある」と感じた方がいらっしゃいましたら、どうかご遠慮なくご相談ください。
糖尿病は、気づいたときに、正しく対処すればコントロール可能な病気です。
私は、患者さんの不安に寄り添い、最適な治療を一緒に考えるのが専門医としての務めだと思っています。
一人で抱えず、まずは「今の状態を知る」ことから始めてみませんか。
あなたのこれからの人生が、安心と希望に包まれるよう、全力でサポートいたします。
以上
引用文献
日本糖尿病学会. 糖尿病診療ガイドライン2024. 南江堂.
厚生労働省. 「令和3年国民健康・栄養調査」. https://www.mhlw.go.jp/
International Diabetes Federation. IDF Diabetes Atlas 10th edition. 2021.
日本内科学会. 内科学 第12版. 南江堂.