

「本当に自分が糖尿病なんだろうか…」そんな気持ちを抱えていませんか?
「健康診断で糖尿病といわれたけど、体調は悪くない」
「生活は乱れてないし(薬も飲んでいないし)、少し血糖が高いだけでしょ?」
こうした感想を持つ方は、実は少なくありません。
症状がほとんどないのが糖尿病の特徴です。
私のもとには、「HbA1cが高い(6.8%)と言われたけれど、何も身体の不調を感じない。これって本当に治療が必要ですか?」といった相談がよく寄せられます。
症状がない=進行していない、ではありません。
糖尿病は、気づかぬうちに体の中で静かに、しかし確実に“良くない変化”が進んでいる病気なのです。
糖尿病がもたらす合併症 ― その本当の怖さとは?
糖尿病が放置されたとき、最も問題となるのが「合併症」です。
血糖値が高い状態(高血糖)が続くと、血管の内側が傷つき、全身の血管に悪影響を及ぼします。
以下は、糖尿病によって引き起こされる代表的な合併症です:
1. 糖尿病性網膜症(失明の原因に)
目の網膜は非常に細かい血管の集まりです。高血糖が続くと血管が傷つき、出血や浮腫が起こります。
初期には視力の変化がなく、自覚症状が出たときにはかなり進行していることが多く、眼の病気以外の失明原因の第一位です。
2. 糖尿病性腎症(人工透析の原因に)
腎臓は血液をろ過する臓器で、細かい血管の集合体です。
高血糖によって腎機能がじわじわと低下し、透析が必要になるケースもあります。(血液透析の場合、1回4時間、週3回が基本)糖尿病は、透析導入の原因の中で最も多い病気です。
3. 糖尿病性神経障害(しびれ・痛み・感覚麻痺)
足の先がジンジンしびれる、熱さ・痛みに気づかない、歩くときの違和感などの感覚神経障害が現れます。まれに運動神経障害もあります。
放置すれば、動脈硬化の進行と相まって壊疽や足の切断に至るケースもあります。
4. 糖尿病性大血管障害:心筋梗塞・脳梗塞のリスク増加
糖尿病があると、心筋梗塞や脳梗塞などの「動脈硬化性疾患」のリスクが一般の健康な人の約2〜3倍に跳ね上がります。
「心臓病・脳卒中の一歩手前」と言っても過言ではありません。
「実感がないまま進行する」からこそ、今が重要です
私が担当した70代の男性の患者さんは、HbA1cが9 %と非常に高いと指摘されながらも「特に症状がないから」と受診を先送りにしていました。
2年後、足のしびれが出て来院されたときには、腎機能も低下し、網膜症の進行も認められました。
「こんなことになるなら、あの時に先生のところに来ていれば…」と何度も悔やんでおられました。
糖尿病の合併症は、進行してしまうと元に戻すことが難しいという特徴があります。
だからこそ、「実感がない今」が最も重要なタイミングなのです。
今からできる3つの予防アクション
1. 数値を知る ― HbA1cと血糖値の定期確認
まずは、今の自分の状態を「数字」で把握しましょう。
HbA1c:過去1〜2ヶ月の平均的な血糖の状態(6.5%以上は糖尿病)
空腹時血糖:正常は110mg/dL未満(110〜125mg/dLは予備軍)
これらは採血1本で簡単に測定可能です。定期的に確認することで、体の変化を早期に察知できます。
2. 食生活を見直す ― 「量と質の管理」
糖尿病の予防には、まず食生活の見直しが欠かせません。ポイントは「量とバランスを適正にする」こと。
・食べる時間を一定に保つ(1日3食が基本)
・野菜から食べ始めて「ベジタブルファースト」、次にタンパク質(肉、魚、大豆等)、最後に炭水化物(ごはん、パン)の順に食べる。
・主食(ごはん・パン)の量を控えめに(全く食べないのは良くない)
・お菓子(饅頭、ケーキ、カステラ、チョコレート、菓子パン、おかき等)の頻度と量を減らす。(食べてもいい量を決める)
いきなり完璧を目指す必要はありません。できることから、少しずつ始めてみましょう。
3. 毎日の運動を習慣にする
糖の代謝には、筋肉の活動が大きな役割を果たします。
・1日20〜30分のウォーキング
・エレベーターではなく階段を使う
・座りっぱなしを避け、1時間ごとに立つ
「運動=スポーツ」ではありません。普段の生活に“動く習慣”を取り入れることが血糖管理のカギです。
専門医として、あなたにお伝えしたいこと
糖尿病は、きちんと向き合えば怖い病気ではありません。
私がこれまで診てきた患者さんの中には、初期に受診し、生活習慣を整えることで薬も使わず血糖コントロールを維持できている方が大勢います。
大切なのは、「症状がないから大丈夫」と思わないこと。
そして、不安なときには早めに専門家に相談することです。
あなたが将来、失明や透析、心臓病などに苦しまないように――
その第一歩は、「自分の今の状態を知ること」です。
最後に:自分の体に耳を傾けてみませんか?
もし「糖尿病と言われたけど、実感がない」と感じているなら、今が未来を守るためのチャンスです。
自分の体の中で起こっている小さな変化を、どうか見逃さないでください。
私たちは、あなたの不安や疑問に丁寧に寄り添いながら、最適なサポートを提供します。
「検査だけでも受けてみようかな」――そんな気持ちで構いません。どうぞお気軽にご相談ください。
以上
引用文献
日本糖尿病学会. 糖尿病診療ガイドライン2024. 南江堂.
厚生労働省. 「令和3年国民健康・栄養調査」https://www.mhlw.go.jp/
International Diabetes Federation. IDF Diabetes Atlas 10th edition. 2021.
Diabetes Control and Complications Trial (DCCT) / UK Prospective Diabetes Study (UKPDS) Group Reports.