こんにちは、しぎょう循環器内科皮膚科の執行です。
この度は季節の変化で薬を変える方が良いのかというある患者さんからの疑問にお答えしたいと思いこのお話をさせて頂いています。
あなたは夏になると、ふらついたり、しんどくなくても血圧が下がり過ぎているように思ったり、逆に冬になると血圧が高いと思われることはありませんか?
本当に今の薬で大丈夫なのかな?という不安があると思います。
そこで今回は血圧の季節変動をふまえ特に副作用が起こりやすい夏に注意する点をご説明をしたいと思います。
この記事を読んでほしい人
- 血圧のくすりを飲んでいて全然変わっていない人
- 血圧のコントロールにむらがある人
- 血圧のくすりを少しでも減らしたい人
- 薬の副作用が心配な人
夏に血圧がさがるって本当?
実際に夏は血圧が下がります。その理由は夏は気温があがり体の血管が拡がり中の血液の量も汗で目減りするために血圧が相対的に低下します。
こちらの図は季節ごとの上の血圧(収縮期血圧)の変動をみたものですがおおよそ摂氏10℃の変化で6mmHg程度変化するといわれています。
日本では地域にもよりますが夏は30度を優に超えて冬は0度近くになる場所もあるので約20mmHg程度の変化があっても不思議ではありません。
そんな中で夏場に血圧が下がり過ぎてしまう方、逆に冬はあがってしまう方がいるのは当たり前なことで今回そのことに気づかれてこのページを見つけられたあなたはもしかしたらあなたの主治医以上にしっかりと血圧の事を考えているかもしれません。
さてでは今からどのように季節変動で降圧薬を変えていくのか、また変えた方が良い兆候や気を付けるべき副作用についてご説明していきます。
夏に薬を減らした方が良い方はこんな人
- 仕事で汗をかくことが多い
- 高所に行くことがよくある
- 頭をさげてあげるとふらつくことがある
- 水分をあまりとらない人
さて、夏になると血圧が低下することは冒頭に申し上げたと思います。下がるのであれば全員薬を減らした方が良いのではないか?と思われる方もいらっしゃると思いますが実はそうではありません。
現在降圧薬を含め医療水準の進歩により高血圧治療は日進月歩で変化しています。一昔前は収縮期血圧を160mmHg以下にしていたら良かったのですが、現在は130mmHg以下と厳しくなっています。
よく患者さんに高血圧のくすりを売りたい薬会社の陰謀だ、あるいは薬漬けにして儲けたい医者の悪だくみだと揶揄されるのですがそうではありません。
少し話はそれますがこれまでの血圧の目標値について簡単にご説明しておきます。夏の降圧薬をやめるやめないに関係があるのか?と思われるかもしれませんが、血圧をしっかり下げることの重要性を理解していないとすぐに薬を止める方向にばかり傾いてしまいます。あなたにとって一番大切なのは、脳梗塞や心筋梗塞、透析など動脈硬化疾患の不遇に見舞われないことです。そのためにどのようにすればよいのかを理解してから薬を減らすべきかどうかをご説明したほうがよいという判断ですのでお付き合いいただければと思います。
結論が知りたい方は読み飛ばしていただいて構いません。
降圧目標の遷延
1. 1980年代
1980年代初頭は、明確な目標値が設定されていませんでしたが、一般的に160/95 mmHg未満が治療目標とされていました。
2. 1990年
1990年に日本高血圧学会が初めて高血圧治療ガイドラインを発表しました。
目標値:140/90 mmHg未満
参考文献:日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会. (1990). 高血圧治療ガイドライン1990.
3. 2000年
2000年のガイドラインでは、年齢や合併症に応じた目標値が設定されましたが以前として一般の目標値は
140/90 mmHg未満でした。他は下記のとおりです。
- 高齢者(65歳以上):150/90 mmHg未満
- 糖尿病・腎疾患合併:130/85 mmHg未満
参考文献:日本高血圧学会. (2000). 高血圧治療ガイドライン2000年版.
4. 2004年
2004年のガイドラインでは、より厳格な管理が推奨されました。
- 一般:130/85 mmHg未満
- 糖尿病・腎疾患合併:130/80 mmHg未満
参考文献:日本高血圧学会. (2004). 高血圧治療ガイドライン2004.
5. 2009年
2009年のガイドラインでは、エビデンスに基づいて目標値が再設定されました。
- 一般:140/90 mmHg未満
- 糖尿病・腎疾患合併:130/80 mmHg未満
参考文献:日本高血圧学会. (2009). 高血圧治療ガイドライン2009.
6. 2014年
2014年のガイドラインでは、年齢や合併症によってさらに細分化されました。
- 75歳未満:140/90 mmHg未満
- 75歳以上:150/90 mmHg未満
- 糖尿病合併:130/80 mmHg未満
- 慢性腎臓病合併:140/90 mmHg未満(蛋白尿陽性の場合130/80 mmHg未満)
参考文献:日本高血圧学会. (2014). 高血圧治療ガイドライン2014.
7. 2019年
2019年のガイドラインでは、より個別化された目標値が設定されました。
- 診察室血圧:130/80 mmHg未満
- 家庭血圧:125/75 mmHg未満
- 75歳以上の後期高齢者:140/90 mmHg未満
参考文献:日本高血圧学会. (2019). 高血圧治療ガイドライン2019.
これらの変更は、大規模臨床試験の結果や疫学研究のデータに基づいて行われてきました。目標値はこれらの試験で血圧をしっかりと低下させておいた方がイベントが少なかったことが確認されてきたからです。
現在の研究では降圧目標が120mmHg未満が140mmHg未満よりも良かったという結果も出てきており、より厳格な血圧コントロールが良い結果をもたらす可能性が高いと言われています。
では夏も薬を止めずにずっと飲み続けて下げていれば良いのでは?と思われると思います。心臓血管にとっては概ねその通りかもしれません。しかし血圧が下がり過ぎると他臓器への必要な血液量が保証されないため過度な降圧はよくありません。
一般的に平均血圧(収縮期血圧+拡張期血圧×2を3で割ったもの)が65mmHgあれば大丈夫と言われていますが人によって動脈硬化の進行具合が違い確実ではない為この臓器還流が保たれていない可能性がある方は減薬したほうが良いという事になります。
ではどのような症状があればその兆候なのかをお話します。
くすりを減らした方がよさそうな症状
- ふらつき
- めまい
- 尿量減少
- むくみ
- 倦怠感
これらの症状は先ほど申し上げた臓器への血流低下の可能性を示唆しています。ですのでまずは水分が足りているのかなどチェックして主治医にその症状を相談してください。脱水がないのか?他臓器は大丈夫かなどを超音波やレントゲンなどの検査で確認してくれるはずです。
ちなみに他の理由で上記症状が起こっていることもあるので症状があるからといってすぐに薬を減らすのも危ないことがあるので絶対に主治医に相談してください。
またこのような症状がなければ絶対に大丈夫かというと年齢があがると症状が出にくいです。しかし年齢とともに臓器は弱っているので実は人知れず臓器を傷めてしまっていることもあります。ですので当院では夏は絶対に症状がなくても少なくとも脱水の検査(体をさわるだけである程度判断できます)をして薬を減らすべきかを確認しています。
夏に出やすい薬の副作用
そのまま薬を減らさずに続けていくとどういうことが起こるのか、副作用の視点からご説明していきます。
降圧薬にも色々な種類があるので一概には言えません。薬別にご説明していきます。
ARB、ACE阻害薬
ARB(アンジオテンシン受容体遮断薬)とACE阻害薬は、高血圧の治療によく使われるお薬です。これらのお薬は効果的ですが、特に夏場の暑い時期に脱水症状と重なると、いくつかの副作用に注意が必要です。
1. 血圧が下がりすぎる危険性
夏場は汗をたくさんかくので、体の水分が減りやすくなります。ARBやACE阻害薬を飲んでいると、脱水と重なって血圧が急に下がりすぎてしまうことがあります。
症状:めまい、ふらつき、立ちくらみ、疲労感
対策:
– こまめに水分補給をする
– 急に立ち上がらないよう注意する
– 症状が出たら涼しい場所で休む
2. 腎機能への影響
脱水状態で血圧が下がると、腎臓への血流が減少し、腎機能に影響を与える可能性があります。
症状:尿量の減少、むくみ、だるさ
対策:
– 水分をしっかり取る
– 塩分の取りすぎに注意する
– 定期的に腎機能検査を受ける
3. 電解質バランスの乱れ
特にACE阻害薬では、脱水と重なると血液中のカリウム濃度が上がりすぎることがあります。
症状:筋力の低下、不整脈(動悸)
対策:
– バランスの良い食事を心がける
– カリウムを多く含む食品(バナナ、干し果物など)の取りすぎに注意
4. 熱中症のリスク増加
これらのお薬を飲んでいると、体が暑さに適応しにくくなり、熱中症になりやすくなることがあります。
症状:頭痛、吐き気、倦怠感、発汗の停止
対策:
– こまめな水分補給
– 涼しい場所で休憩を取る
– 外出時は日よけや帽子を使用する
これらの注意点を守ることで、夏場でも安全にARBやACE阻害薬による治療を続けることができます。わからないことや不安なことがあれば、主治医に相談してください。
利尿剤
利尿剤は高血圧や心不全、浮腫の治療によく使われるお薬ですが、特に夏場は注意が必要です。利尿剤は体内の余分な水分を尿として排出する働きがあるため、暑い時期の使用には特別な配慮が必要です。
1. 脱水のリスク増加
夏場は汗をかきやすく、もともと体内の水分が減りやすい状態です。そこに利尿剤を使用すると、さらに水分が失われやすくなります。
症状:喉の渇き、めまい、疲労感、尿量の減少
対策:
– こまめな水分補給(ただし、心不全がある場合は医師の指示に従ってください)
– 体重の変化に注意を払う
– 暑い時間帯の外出を避ける
2. 電解質バランスの乱れ
利尿剤の使用で、ナトリウムやカリウムなどの電解質が体外に排出されやすくなります。夏場の発汗と合わさると、電解質バランスが崩れやすくなります。
症状:筋肉の痙攣、倦怠感、不整脈
対策:
– スポーツドリンクなど電解質を含む飲料の適度な摂取
– バランスの取れた食事
– 医師の指示に従った定期的な血液検査
3. 血圧低下のリスク
利尿作用と夏場の血管拡張が重なり、急激な血圧低下を起こす可能性があります。
症状:めまい、立ちくらみ、失神
対策:
– ゆっくりと姿勢を変える
– 症状がある場合は横になって休む
– 血圧の自己測定と記録
4. 熱中症のリスク増加
利尿剤の使用で体内の水分量が減少するため、熱中症になりやすくなります。
症状:頭痛、吐き気、だるさ、発汗の停止
対策:
– 涼しい環境で過ごす
– 適切な水分補給
– 外出時は日よけや帽子の使用
5. 腎機能への影響
脱水状態が続くと、腎臓への負担が増加し、腎機能に影響を与える可能性があります。
症状:むくみ、尿量の変化、全身のだるさ
対策:
– 水分摂取を心がける
– 定期的な腎機能検査を受ける
カルシウム拮抗剤
カルシウム拮抗剤は高血圧治療によく使われるお薬の一つです。血管を拡張させて血圧を下げる効果がありますが、夏場の使用には以下のような点に注意が必要です。
1. 血管拡張作用の増強
夏の暑さで血管がもともと拡張しやすい状態にあるところに、カルシウム拮抗剤の作用が加わることで、血圧が予想以上に下がることがあります。
症状:めまい、ふらつき、立ちくらみ
対策:
– ゆっくり立ち上がる
– 水分をこまめに摂取する
– 症状が出たら涼しい場所で休む
2. 足のむくみ
カルシウム拮抗剤の副作用として足のむくみがありますが、夏場は暑さによる血管拡張も加わり、むくみがより顕著になることがあります。
症状:足首や足のむくみ、靴がきつく感じる
対策:
– 足を少し高くして休む
– 軽い運動や足のマッサージを行う
– 長時間の立ち仕事や座り仕事を避ける
3. 熱中症のリスク
カルシウム拮抗剤による発汗増加や体温調節機能への影響で、熱中症のリスクが高まる可能性があります。
症状:頭痛、吐き気、だるさ、めまい
対策:
– こまめな水分補給
– 涼しい環境で過ごす
– 外出時は日よけや帽子を使用する
4. 血圧の日内変動
夏場は昼間と夜間の温度差が大きくなり、血圧の日内変動が大きくなることがあります。
症状:朝方の高血圧、日中の低血圧
対策:
– 朝晩の血圧測定を行い、記録する
– エアコンの使用で急激な温度変化を避ける
5. 光線過敏症
一部のカルシウム拮抗剤で、まれに光線過敏症(日光に当たると皮膚に発疹ができる)が報告されています。
症状:日光に当たった部分の発疹、かゆみ
対策:
– 日焼け止めを使用する
– 長袖や帽子で日光から肌を守る
カルシウム拮抗剤は多くの患者さんに有効な薬ですが、夏場の使用には特別な注意が必要です。体調の変化や気になる症状があれば、遠慮なく医師や薬剤師に相談してください。適切な管理と注意を払うことで、夏場も安全に治療を続けることができます。
まとめ
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。今回お伝えした内容は 血圧は夏に低下し、冬に上昇する傾向があります。そのため季節に応じて薬剤を変更する必要があります。しかしただ減らせば良いわけではありません。理由としては、高血圧治療の目標値は年々厳格化しているということからも分かる通り降圧をすることでイベントを減らすことができるからです。
しかし夏場は降圧薬の副作用に注意が必要で、薬別に注意点が変わります。脱水、電解質バランスの乱れ、熱中症のリスク増加などがあり症状がある場合は自己判断せず、必ず医師に相談するようにしてください。
以上
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