

「こんなに頑張っているのに…」という患者さんの声
「白米の量を減らしてるのに、HbA1cが全然下がらない」
「甘い物は我慢してるのに、医師から『もっと改善を』と言われてしまった」
私の外来でも、こうした悩みを抱えた患者さんにたびたびお会いします。
実際、多くの方がご自身なりに食事に気を配り、頑張っておられるのです。だからこそ、「成果が出ない」と感じると、がっかりし、自信をなくしてしまいます。
私はいつもこうお伝えしています。
「頑張っていること自体が素晴らしい。その上で、少し“見直し”が必要かもしれませんね」
糖尿病の食事療法は、「量(カロリー数)」だけでなく「質(内容のバランス)」と「タイミング(規則的な食事時間)」が
重要です。そして、意外と見落としがちな落とし穴も存在します。
ありがちな“誤解”と“落とし穴”
1. 白米を減らしたのに、パンや麺が増えている
「ごはんは減らした」とおっしゃる方でも、実は食事の中でパンやうどん、ラーメンなどが増えていることがあります。
→ これらも糖質量は高く、血糖を大きく上昇させます。
とくに朝食に食べがちな「菓子パン」「シリアル」「グラノーラ」などは、思った以上に糖質が多く含まれています。
2. 野菜をたくさん食べているつもりでも…
サラダをよく食べている方でも、じゃがいも・にんじん・とうもろこしなどの「糖質の多い野菜」をメインにしていることがあります。
→ 血糖値を下げるには、ブロッコリー・キャベツ・ほうれん草・小松菜などの“緑黄色野菜”が効果的です。
また、ドレッシングにも注意が必要です。市販のものは糖質やカロリーの高い油分が多いものがあります。
3. 「カロリーを抑えればいい」と思っている
糖尿病治療で重要なのは、単なるカロリー制限ではなく、糖質・脂質・タンパク質の良好なバランスに基づいた「糖質コントロール」です。
→ カロリーの低い食品でも、血糖値が上がりやすい糖質もあります。
たとえば、ノンシュガーと表示されている飲料でも、デンプン由来の糖が含まれていると血糖値が上がります。
ではどうすれば良いのか?
見直しポイント①:主食の「質」と「量」
まず、主食の種類を見直すことが効果的です。
・白米 → 玄米・雑穀米
・食パン → 全粒粉パン
・うどん → そば(十割そば)や春雨少量
・ラーメン → 控えるか、スープなしで野菜多めに
また、1食あたりのごはんの量は100~150g程度(茶碗半分~6分目)が目安。
大盛りにせず、ゆっくりよく噛んで(理想的には30回、もしくは形がなくなるまで)食べることで血糖上昇を穏やかにします。
見直しポイント②:たんぱく質と脂質の「バランス」
・たんぱく質は:鶏むね肉・魚(特に青魚)・豆腐・納豆などが良い選択
糖質を抑えて「代わりにお肉を増やせばいい」と考える方がいますが、お肉に含まれる過剰な脂質摂取は別の問題を招きます。
・脂質は:バターや揚げ物を控え、オリーブオイル・ごま油・ナッツなど良質な脂に切り替える
糖質を控えても体重の増加がある場合、脂質の摂りすぎが血糖と体重のコントロールを難しくしている可能性があります。
見直しポイント③:食事のタイミングと順番
血糖値の変動を抑えるには、「食べ方」も大切です。
・食べる順番は、「野菜 → たんぱく質 → 炭水化物」
・1日3食、できれば決まった時間にゆっくりよく噛んで食べる
・夜遅い時間の食事は避ける(19時までが理想)
夜遅くに食べると、高くなった血糖値を下げる力(特に膵臓)が弱いため、一晩中血糖値が高いままとなり、様々な臓器障害(合併症)を引き起こしやすくなります。
患者さんの実例:少しの工夫で劇的な変化も
私が診た太り気味の50代女性は、朝はトーストとカフェラテ、昼はパスタ、夜はごはん控えめ+おかずたっぷりという食事をしていました。
「甘い物は食べていないし、カロリーは控えているのにHbA1cが7.5%から下がらない」と悩んでおられました。
そこで、朝を「納豆ごはんと味噌汁」、昼を「おにぎり1個+サラダチキン」、夜を「野菜炒め+少量ごはん」に変更していただき、食事の順番や間食の見直しも加えた結果、3ヶ月でHbA1cが正常範囲まで改善し、無理なく減量もできました。
自分に合った“正しい食事”を見つけるために
糖尿病の食事療法は、「我慢」ではなく「工夫」で成り立っています。
大切なのは、極端な制限ではなく、続けられる方法を見つけることです。
医師や管理栄養士、看護師らの糖尿病診療チームと一緒に、自分の生活スタイルに合った実現可能な方法を探していきましょう。
そして、「努力しているのに結果が出ない」ときこそ、プロの目線で一度見直すチャンスです。
最後に ― 自分を責めず、まず一緒に原因を探しましょう
食事に気をつけているのに血糖値が下がらないと、「自分はだめだ」と感じる方がいらっしゃいますが、それは違います。
あなたはすでに、治療への第一歩を踏み出しているのです。
あとは、「どこに見直しのポイントがあるか」を一緒に見つけるだけです。
私たちは、あなたの努力を認めながら、より効果的な方法をご提案いたします。
「ちょっと相談してみようかな」そんな気持ちで、ぜひ一度ご来院ください。
きっと、あなたに合った新しいヒントが見つかるはずです。
引用文献
日本糖尿病学会. 糖尿病食事療法ガイド2024. 医歯薬出版.
厚生労働省. 「e-ヘルスネット|糖尿病と食事」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/
Franz MJ et al. Nutrition therapy for adults with diabetes. Diabetes Care. 2022.
Jenkins DJA et al. Glycemic index: overview of implications in health and disease. Am J Clin Nutr.