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高血圧のあなたはバイアグラを使っても大丈夫?バイアグラを安全に使用するための重要な情報、副作用など

しぎょう院長

こんにちは、循環器専門医の執行です。今回は外来でこっそりと男性患者さんに聞かれる悩み、ED治療薬と高血圧の関係についてお答えしたいと思います。

この記事を書いている人

しぎょう循環器内科・内科・皮膚科・アレルギー科 院長 執行秀彌           

【資格】

日本循環器学会専門医

日本内科学会 総合内科専門医 指導医  

日本心臓リハビリテーション指導士

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はじめに

勃起不全(ED)は、高血圧患者さんにとってよくある悩みの一つです。バイアグラ(一般名:シルデナフィル)は、EDの治療薬として広く使われていますが、高血圧の方が使用する際には特別な注意が必要です。この記事では、高血圧患者さんがバイアグラを安全に使用するための重要な情報をお伝えします。

そもそも何故高血圧患者さんはEDになりやすいのか?

EDに困られてこのページをご覧くださっていることは重々承知していますがEDが実は動脈硬化と密接に関係しておりその後の健康に関係することを知っておいてほしく少しお話をさせてください。

動脈硬化とEDの関係は、血管の健康状態が勃起機能に直接影響を与えるという点で密接に関連しています。以下、主要なポイントと関連する研究をご紹介します。

動脈硬化とEDの病態生理学的関連

動脈硬化は血管内壁にプラークが蓄積し、血管の柔らかさが失われ、血流が制限される状態を指します。
一方、勃起は陰茎への十分な血流によって引き起こされます。
つまり、動脈硬化は陰茎への血流を妨げ、EDの原因となります。


そして当然ですが陰茎への血管だけが動脈硬化する訳ではなく全身ほぼ同じように進んでいくのが動脈硬化です。
ですのでEDになった場合動脈硬化以外の原因もありますがご自身の動脈硬化を一度調べた方が良いです。
特にこのページにたどり着かれた「高血圧」を合併している方なら尚更です。

EDは心血管疾患の早期指標となる可能性

EDは多くの場合、心血管疾患の初期症状として現れることがあります。これは、陰茎の動脈(直径1-2mm)が心臓の冠動脈(直径3-4mm)よりも小さいため、動脈硬化の影響をより早く受けやすいためです。

ある研究は、冠動脈疾患患者さんの多くが、心臓の症状が現れる前にEDを経験していたことが分かっています。
何故なら共通のリスク因子が動脈硬化とEDにはあり、高血圧以外にも、糖尿病、高コレステロール血症、喫煙、肥満などが含まれます。
つまりEDを持つ男性が心血管疾患のリスクが高いことを示し、EDが心血管疾患の独立した予測因子である可能性も言われています。

これらの踏まえると、EDをただの勃起不全として単独の問題として扱うのではなく、全身の血管の障害という意味で対応を考えることが重要です。

さてここまでお付き合いくださりありがとうございます。それでは今回の主題である高血圧であるあなたがバイアグラを使えるのかどうかをご説明していきます。

バイアグラとは

バイアグラは、ホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害薬と呼ばれる薬剤の一種です。主に勃起不全の治療に使用されますが、その作用機序は血管を拡張させることにあります。この血管拡張作用が、高血圧患者さんにとって注意が必要な理由となります。

高血圧患者さんのあなたは血圧を下げる薬を飲んでいますか?

飲んでいないから大丈夫かというと、そうではなく血圧が高い方は血管の弾力が落ちて動脈硬化が進行している事が多いです。
その血管をバイアグラは一時的に拡張させる作用があります。
弾力がある血管が拡がっても血圧への影響はあまりないのですが、硬い血管が拡がると急激に血圧低下の可能性があり
ふらつきやめまい、場合によっては失神することがあります。

またあなたが降圧薬を飲んでいれば相互作用を起こしえます。
バイアグラと降圧薬を併用すると、血圧がさらに低下する可能性があります。

注意すべき重要なポイント

高血圧患者さんがバイアグラを使用する際には性行為に及ぶことを前提としています。
それを踏まえて、以下の2点に関して注意が必要です:

血圧が下がり過ぎないか?

バイアグラを内服すると血圧が低下することはお伝えしました。
血圧が低い時に過度な運動を行うと体調が悪くなることは当たり前です。行為の内容にもよりますが一般的に3.3メッツ程度の運動と言われています。3.3メッツというと早歩きくらいの運動になります。

国立健康・栄養研究所 – 改訂版『身体活動のメッツ(METs)表』

ですのでまずは内服してみて血圧がどれくらい下がるのか、散歩できるのかを確認してみる事から始めて、バイアグラの使用が適切かどうかを判断する必要があります。

そもそもあなたの心臓血管は大丈夫なのか?

先程申し上げたとおり血圧を下げる薬を飲んでおこなう運動という悪条件です。
運動時に心臓や脳に負担をかけて心筋梗塞などになってしまう方も見受けられます。
また狭心症などの治療で使用される硝酸薬(ニトログリセリンなど)とバイアグラの併用をすると、
重度の低血圧を引き起こす危険性があり危険です。

そのため良く医師に高血圧だけど飲んでも大丈夫か?と聞かれる方がいますが、
厳密にいうと心臓血管を調べていないのに大丈夫と言えるわけがありません。

ここまで読んで「わからんのかい!」とツッコんでいる方もいらっしゃると思います。当院ではどのように判断しているかをご説明します。

バイアグラを飲んでも良いか調べるには?

先程申し上げた通り結局のところは自己責任です。どれくらいのメッツの運動をされるのかこちらも現場についていくわけに行かないのであくまで一般的な見解を述べることになります。

先程の2つの問題点のうち血圧の低下に関してはとりあえず内服してみてどれくらい血圧がさがるか自宅の中でうろうろしてみて気持ち悪くならないかを試すことでクリアできると思います。

問題は2つ目の実際に運動をしている際に狭心症、心筋梗塞などのイベントが起きないかです。
そちらに関しては動脈硬化がどれくらい進行しているかを調べることで恐らく大丈夫だといえるかどうかが分かります。

具体的には心電図、心臓超音波検査などを行い怪しい場合は薬を飲まずに運動をしてもらいながらとる心電図検査を行います。

それによって問題なければ当院では問題ないと回答しています(繰り返しになりますが自転車を漕ぐよりも強度の強い性行為をされるかもしれないのと強度はそれほどでもなくても興奮度は分からないので最後は自己責任ですが・・・)。

こんな事が起こったらすぐにストップ!

行為中にめまい、立ちくらみ、視覚の変化などの副作用が現れた場合は、すぐに行為を中断し医師に相談してください。

実際のトラブル事例

バイアグラの不適切な使用による問題事例をいくつか紹介します。これらの事例は、高血圧患者さんがバイアグラを使用する際のリスクが分かると思います。

硝酸薬との併用による重度の低血圧

このお話はまだ僕が修練医だったころの話です。
60代後半で過去に狭心症の診断を受け治療後でしたが最近胸痛発作があるためにニトロを処方されていました。
そうとは知らずか近医でバイアグラを処方され、両者を併用したところ、重度の低血圧と意識消失を起こし、救急搬送されました。
当初バイアグラ服用に関しては黙っておられた為急激な血圧低下、失神とのことで緊急カテーテル検査などの提案もされた際に気まずそうに自白されました。救急搬送の際はお一人で来られ、その2時間後に奥様が到着された事から、何かを察しましたがそちらに関しては詳細は不明です。話がそれかけましたがこの事例は、硝酸薬とバイアグラの併用が絶対に避けるべきであることを示しています。

降圧薬との相互作用による過度の血圧低下

50代の高血圧患者さんが、カルシウム拮抗薬と利尿薬の併用療法を受けていました。バイアグラを服用後、めまいと立ちくらみを経験し、血圧を測定したところ、上の血圧が80mmHg以下となっていることが判明しました。この事例は、降圧薬を服用中の患者さんがバイアグラを使用する際には、血圧の変動に十分注意する必要があることを示しています。

突然死した事例

これは警察からの連絡だけなので現場をみた訳でないのですが、以前勤めていた病院で当直をしていた際に夜間に警察から連絡が来ました。
話を聞くとその病院の循環器内科(所属してました)にかかりつけの患者さんが自宅で突然死したが死亡診断書を書けますか?という内容でした。

患者さんは60代の方で狭心症でカテーテル治療をされ4~5年経過しているという方でした。カルテをみても胸部症状は一切なく調子が良いように書かれていました。薬は沢山の血圧のくすりや血管拡張薬が出ていましたがしっかりと通院しておられました。

結局最終受診が2か月ほど前だったことと突然死であり理由が分からない為、病死と言えず司法解剖になりました。後日死因がバイアグラ服用後の性行為中の心筋梗塞と結論付けられたと連絡がありました。

あなたが安全に使用するための具体的なアドバイス

循環器専門医との綿密な相談

バイアグラの使用を検討する際は、現在の血圧の状態、服用中のすべての薬剤(処方薬、市販薬、サプリメントを含む)、その他の健康状態について詳しく医師に伝え、動脈硬化疾患がどれくらい進行しているのかをしっかりと確認してもらってください。

血圧の定期的なモニタリング

バイアグラを使用する前後で血圧を測定し、記録するようにしましょう。大きな変動が見られる場合は医師に相談してください。家庭用の血圧計を使用して、定期的に血圧をチェックすることをお勧めします。

徐々に開始すること

開始可能と言われても、通常推奨される最低用量から開始し、効果と副作用を観察しながら徐々に調整していくことが安全です。

生活習慣の改善

バイアグラの使用と並行して、高血圧や勃起不全の改善に効果的な生活習慣の改善にも取り組みましょう。適度な運動、バランスの取れた食事、禁煙、適正体重の維持などが重要です。

アルコールとの併用に注意

アルコールにも血管拡張作用があるため、バイアグラと一緒に摂取すると血圧低下のリスクが高まる可能性があります。アルコールの摂取は控えめにし、バイアグラ服用時は特に注意しましょう。

服用のタイミング

バイアグラは通常、性行為の約1時間前に服用します。食事の影響を受けにくいですが、高脂肪食後は吸収が遅れる可能性があります。また空腹時は吸収が速まり血圧が下がりやすい傾向にあります。

よくある質問(FAQ)

バイアグラは高血圧を悪化させますか?

バイアグラ自体は高血圧を悪化させませんが、血圧を一時的に低下させる可能性があります。適切な用量と医師の指導のもとで使用すれば、通常は安全です。

降圧薬を服用中ですが、バイアグラは使えますか?

多くの場合、降圧薬とバイアグラの併用は可能ですが、医師の慎重な評価と指導が必要です。血圧の過度の低下を避けるため、用量調整が必要な場合があります。

バイアグラを使用して問題が起きたら、どうすればいいですか?

めまいや急激な血圧低下などの問題が生じた場合は、すぐに性行為を中止し医師に連絡するか、救急医療を受けてください。

バイアグラの代替薬はありますか?

レビトラ(バルデナフィル)やシアリス(タダラフィル)など、他のPDE5阻害薬が利用可能です。ただし、これらの薬剤も高血圧患者さんには同様の注意が必要です。

まとめ

高血圧患者さんにとって、バイアグラの使用には特別な配慮が必要です。しかし、適切な医学的管理のもとでは、多くの場合、安全に使用することが可能です。重要なのは、医師との綿密なコミュニケーション、定期的な血圧のモニタリング、そして副作用の兆候に注意を払うことです。

バイアグラは多くの方にとってQOL(生活の質)を向上させる有効な治療法ですが、安全性を最優先に考えることが大切です。この記事で紹介した注意点や科学的根拠、実際の事例を参考にしながら、ご自身の健康状態に合わせた最適な使用方法を医師と相談して決めていってください。

性機能の問題は、心身の健康や人間関係に大きな影響を与える可能性がある重要な問題です。恥ずかしがらずに医療専門家に相談し、適切な治療を受けることが、より健康で充実した生活につながります。高血圧の管理と勃起不全の治療を両立させることで、総合的な健康とQOLの向上を目指しましょう。

この記事でご紹介した医療情報は、常に更新されています。最新の情報や個別の健康状態に応じたアドバイスについては、必ず担当の医師にご相談ください。

以上

参考文献
Kostis JB, et al. (2005) “Meta-analysis of effect of statins on erectile dysfunction.” Journal of Sexual Medicine.

Kaiser DR, et al. (2004) “Impaired brachial artery endothelium-dependent and -independent vasodilation in men with erectile dysfunction and no other clinical cardiovascular disease.” Journal of the American College of Cardiology.

Ponholzer A, et al. (2005) “Is erectile dysfunction an indicator for increased risk of coronary heart disease and stroke?” European Urology.

Montorsi P, et al. (2003) “Association between erectile dysfunction and coronary artery disease. Role of coronary clinical presentation and extent of coronary vessels involvement: the COBRA trial.” European Heart Journal.

Feldman HA, et al. (1994) “Impotence and its medical and psychosocial correlates: results of the Massachusetts Male Aging Study.” Journal of Urology.

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