こんにちは、循環器専門医の執行です。
今回のテーマは高血圧と認知症についての関連です。
認知症は現在増加の一途をたどっていて社会問題となっています。このページをみて高血圧に悩みがあるあなたならもしかしたら、ご家族が認知症で介護に忙殺されているかもしれませんし、周囲で認知症で疲れ果てている方を見たことが一度や二度ではなく見たことがあると思います。
もし自分が認知症になったら・・・
想像してみてください。自分が何をしているのか分からない・・・分からないけどみんなには迷惑をかけているようだ・・・
大切な家族に迷惑をかけたくはないし邪険にもされたくはない。
そのように考えるのは当然のことだと思います。
しかし認知症研究では依然として予防効果があると認められたものは極めて少ないと言わざるを得ません。(フェルガードのページを合わせて読む)
現在(2021年1月)認知症の内訳は図のようになっています。
ご覧の通りアルツハイマー病がダントツの1位で続いて脳血管性です。
高血圧と動脈硬化=脳血管の障害があることは疑う余地がないのですが最近ではアルツハイマー病に対する予防効果も報告されています。
アルツハイマー病を予防する、進行を抑えるには高血圧をはじめとした生活習慣病の適切な管理が大切です。専門医に相談しよう。
解説します。フランスで行われた研究では軽度認知機能障害のある患者さんの生活習慣病を適切に管理したグループとしていないグループでは2.5年後に認知機能が27%も変わっていたというデータがあります。
そういうと、「私は血圧の治療を受けているから予防ができている」と油断していませんか?
「適切に」と書きましたがこの「適切に」というのが難しいんです。
というのが、別の研究では血圧の治療によって血圧が下がりすぎることが脳の萎縮に影響をあたえ認知症の進展につながったという報告もあります。
また拡張期血圧が下がりすぎることで認知症が進展したなど、ただ血圧を下げるのではなく「適切に」下げる必要があります。
また、認知症以外にも年齢を重ねれば腎臓や心臓などのほか臓器にも多かれ少なかれ傷みが出ているものです。それらの臓器の負担を考えて血圧をコントロールする専門性が求められます。
では具体的に「適切な治療」とは何なのか?
適切とは「適切な薬」を「適切なタイミング」で使って「適切な血圧」にコントロールすることです。それぞれこれからご説明します。
同じ血圧でも薬剤の種類によって予防効果が違う。
解説します。降圧薬にも様々な種類があります。(詳しくはこちら)
その中でレニンーアンジオテンシン(RA)系という経路を遮断する薬剤による予防効果の報告があります。別系統の薬で血圧が同じ数値に下がっていたとしても同じだけの認知症予防効果があるとは言えません。
青がRA系の薬剤を使用した方でのアルツハイマー型認知症の回避率です。
緑が他の降圧剤を使用した方の回避率です。
有意にRA系の薬剤が認知症を回避していることが分かります。
RA系の薬を使えない理由があるのか?それを考えず数字だけ合わされる治療にならないように専門家にかかるようにしてください。
同じ薬剤でも飲むタイミングによって予防効果が違う。
同じ血圧(測っているときは)でも実は夜寝ているときの測れていない血圧が高い方がいます。その方をnon-dipper、起きているときよりも高い方をriserといいます。
話し出すと長くなってしまうので気になる方はこちらをお読みください。
結論から申し上げると夜間の血圧を下げることで脳梗塞や心筋梗塞の発生率が低下したということが報告されており、飲み忘れがないのであれば就寝前に飲まれる方が良いことが分かっています。
左が寝る前のお薬を飲むグループ、右が朝薬を飲むグループです。
脳梗塞や心臓事故などが寝る前に薬を飲む方が少なかったことがわかります。
じゃあ血圧の薬はなんで朝に出されることが多いの?
血圧の薬を出している人が血圧の専門家とは限らない、また専門家であってもこの総合的に考えて朝に出すことはあるのでそれ以上はいえません。
適切な血圧は一人一人本当は違う。あなたにとって適切な血圧を医師と一緒に把握しよう。
認知症予防にとって適切な血圧はまだ結論が出ていません。しかしどうやら積極的に血圧を下げたほうが良いことが示唆される報告が出てきています。
積極的治療とは上の血圧を120mmHg未満までしっかり下げることを言います。それによって認知症の発生率を15%抑えられたという報告があります。
では、みんな積極的に120mmHg未満を目指せばよいか?
残念ながらそんな簡単なものではありません。
血圧が下がりすぎると認知症の進行があるという報告があったり、脳以外にも腎臓や肝臓に負担がかかることが分かっています。
その方が腎臓や肝臓にどれくらい余力があるのか、心臓の状態はどうかどのくらいの血圧だと負担を減らせるのかを考えてそれぞれのベストを模索していくことになります。
ただ血圧を下げるだけではなく下げたことで副作用がないか、その薬による副作用がないかそれらを逐一診察や検査で調べながら綿密に調整する長い治療が血圧治療です。
ただ薬をもらっているだけの外来では到底そのようなことは期待できないので相談に乗ってくれる専門医を受診してくださるようにしてください。
以上
参考文献
日本神経学会認知症疾患診療ガイドライン2017
Li NC, et al: BMJ 2010; 340
Ramo´n C. Hermida et al; European Heart Journal (2020) 41, 4565–4576
高血圧治療ガイドライン 2019(JSH2019)
この記事を書いた医師
Dr. 執行 秀彌(しぎょうひでや)
しぎょう循環器内科・内科・皮膚科・アレルギー科 院長
日本内科学会認定内科医・総合内科専門医
日本循環器学会認定循環器専門医
大阪市立大学医学部を卒業後
国立循環器病研究センター病院や住友病院等を経て2020年4月に開業
最寄駅:JR立花駅(徒歩20分)および尼崎センタープール前駅(徒歩10分)