こんにちは、しぎょう循環器内科皮膚科の執行です。早速ですがあなたはこんな思いがありませんか?
☑「急にドキドキして心臓がどうにかなっちゃいそう」
☑「息切れがしてしんどい」
☑「もしかしてこれって心房細動?」
☑「心房細動で手術が必要と言われたが、よくわからず不安…」
不整脈の中でもやっかいな病気である心房細動。場所が心臓で、不安で仕方ないですよね。
一方で、ネット検索しても何が正しいのかわからない…
そんなあなたが少しでも正しい情報を得られるように循環器専門医が詳しく説明します。
しぎょう循環器内科・内科・皮膚科・アレルギー科 院長 執行秀彌
【資格】
日本循環器学会専門医
日本内科学会 総合内科専門医 指導医
日本心臓リハビリテーション指導士
心房細動ってそもそもどんな病気?
心房細動は本来の正常な脈(洞調律)と違った場所での電気信号が大量に発生しそれに対してランダムに反応することで脈が乱れ速くなることが多い不整脈です。
中学生の時に習ったと思いますが心臓は4つの部屋から出来ています。上の部屋を心房、下の部屋を心室といい左右に分けて右心房、右心室、左心房、左心室と分かれます。
本来の脈は右心房にある洞結節という部分から電気信号が1分間に60~100回程度発生しそれが心室と心房の間にある房室結節に伝わった後に左右の心室に伝わり心臓が収縮します。
しかし心房細動では洞結節ではなく左右の心房で1分間に約500~600回くらいの電気信号が発生しそれが房室結節の反応が回復したタイミングで心室に伝わっていきます。
そのため発生した電気信号の場所によって脈のタイミングがずれるし房室結節の反応性が高い方は脈が速くなり動悸を感じやすくなります。
心房細動は非常に多い不整脈で年齢が上がれば上がるほど患う可能性が高くなります。70歳以上の男性の29人に1人、80歳以上の男性の22人に1人が心房細動を患っておりクラスの同窓会をすると何人かは心房細動だというくらい一般的です。
しかし一般的だからといって油断していると実は大変なことになるのが心房細動です。
というのも心房細動はその名の通り心房が震えているので血液が心房の中でうっ滞します。すると血液は血栓を作りやすくなり、その血栓が何かの拍子で心臓外に飛び出すと脳に詰まると脳梗塞、腎臓なら腎梗塞による透析などあらゆる不幸を招きます。
よく見る不整脈ですが油断をしないでこれから原因についてお話をしていきます。まだあなたが心房細動になっていないなら予防して将来に備えてください。
原因は?
一番の原因は加齢
年齢があがるにつれてやはり心臓は傷んでいきます。車であれば買い替えればよいですが心臓はそうはいきません。
心臓はあなたが寝ている時でさえ止まることなく働き続けています。
その結果心臓が傷んでいきある時、心房細動になってしまいます。
実は、心房細動になる仕組みはわかっているのですが、なぜなる人とならない人がいるのか?の違いはわかっていません。
年齢は止めることはできませんが、自分で是正できるリスクをしっかりと知って予防をすることが大切です。それでは今から心房細動の是正可能なリスク因子を7つお話します。
心房細動を予防するためにできること7選
1高血圧
高血圧がもっとも多いリスクファクターです。心房細動の患者さんのうち高血圧を患っている方が一番多いことが分かっています。長期的な上の血圧が高い状態や長期間の治療歴が心房細動の発生リスク増加に関与している事が分かっています。
2糖尿病
空腹時の血糖値が18mg/dlあがるごとに心房細動発症リスクが33%増加することが分かっています。しかし血糖コントロールをすることが心房細動の発症改善にはつながるという報告はありません。糖尿病にならないように、そもそも血糖値をあまり乱高下させないようにすることが大切なのかもしれません。
3肥満
肥満は明らかな心房細動のリスク因子でBMIが上昇すると心房細動になりやすく低下せることでリスクが低下することが分かっています。
4睡眠呼吸障害
寝ている時に突然いびきが止まったりしていませんか?睡眠時無呼吸症候群といわれ重症度が高い人ほど心房細動になる可能性が高いことが示唆されています。
寝ている時にいびきがある、家族に息をしていないときがあると言われた方は一度調べた方が良いかもしれません。
5尿酸
尿酸と心房細動の関係はこれまであげたリスクと比較すると少し関連性は弱いです。
しかし日本人のデータでは尿酸値が高い人ほど心房細動になりやすいことが分かっており尿酸値を出来るだけ上げないようにすることが大切です。
6喫煙
喫煙は心房細動発症の強いリスクでBrinkman指数(1日の本数×吸った年数)が800以上になると新規発症リスクが上がることが分かっています。また心房細動の患者さんで喫煙者の方が死亡率が高く喫煙は今まで上げたリスクの中で最もやめてほしいし止めやすいものです。
最近は禁煙外来で保険適応で禁煙を達成することができます。
7飲酒
アルコール消費量が多い人ほど心房細動発症が多いことが分かっています。1日のアルコール消費量が10g増えるごとに5%ずつ発症リスクが上昇します。
どんな症状?
急にドキドキと動悸を感じる
心房細動になると以下のような症状が出ます。
- 急に始まる動悸
- 少し動くと息切れがする
- 足が浮腫む
- ふらつき、倦怠感
- めまい
心房細動の初期症状として「急にドキドキして少し動くと息切れがする」というパターンが一番多いです。
とても不安になりクリニックに駆け込んでくる人、お電話で問い合わせてくださる人。
まさに「心房細動あるある」で、診なくても見当がついてしまいます。
これは発作性心房細動と言って、心房細動の始まりの症状です。
心房細動がおさまると症状が嘘のように消えてまるで治ったかのように思われますが治っていません。だんだん発作の頻度が増えていき、逆に発作に気づかず、持続性心房細動と常に心房細動の状態に移行する人がいます。
慣れて無症状であればほっておいてもよいと思ってしまうかもしれません。しかしほおっておくと大変なことになってしまうかもしれません。
なぜそのままにしてはだめなのか?
実は、心房細動は発作性が治まっていても、あるいは慣れてしまい気づかない持続性心房細動であっても、心臓内に血栓ができてしまい脳梗塞の予備軍になってしまう病気です。また徐々に心房が拡大し心房細動が治りにくい状況になってしまいます。
さて、ではどういった方が脳梗塞を起こしやすいのか。それが分かるリスクファクターがあります。
1点:心不全のある人
1点:高血圧のある人、もしくは治療中の人
1点:75歳以上の人
1点:糖尿病のある人、もしくは治療中の人
2点:これまでに脳梗塞あるいは一過性脳虚血発作(TIA)にかかったことのある人
この合計点数が高い人程脳梗塞発生率が高く
0点:1.9%/年
1点:2.8%/年
2点:4.0%/年
3点:5.9%/年
4点:8.5%/年
5点:12.5%/年
6点:18.2%/年
となっています。脳梗塞の予防のために抗凝固薬を飲むのですが、当然血が固まりにくくなるので出血リスクが増加します。ですので現在はリスクのメリットを天秤にかけて1点以上の方にDOACという種類のお薬を出すことが一般的です。昔から使われているワルファリンはDOACに比べて血中濃度の安定性が不安定で2点以上から出すことが一般的です。
こういった事情もあり絶対に病院で治療を考える必要があります。また先ほどちらっと申し上げましたが心房細動はなってすぐに治療するのと長期間ほってから治療するのでは治療成績に雲泥の差がついてしまいます。
つまり心房細動は早めに治療することがベストです。
すぐに治療の決心はつかないにせよ、そのままほったらかしにする事は良くありません。
とりあえず一度は循環器内科の診察を受けてアドバイスを受けることをおすすめします。
診断方法は?
症状がある時の心電図検査が最も大切
心房細動の診断は心電図検査が必須です。
実は、心電図検査は心房細動に限らず、不整脈の診断において最も大切な診断法なのです。
(なかなか症状があるときに病院に行きたくてもいけない事もあるのですが…)
また症状が軽くても循環器専門医による検脈で脈の乱れが見つかり心房細動が見つかるケースもあります。いずれにせよ病院を受診しないことには心房細動は診断がつかずほったらかしになり脳梗塞予備軍になってしまいます。
ホルター心電図や携帯型心電計、アップルウォッチも役に立つ
とはいっても中々症状が出ている時に病院を受診できないという方はたくさんいらっしゃると思います。
そんな方にホルター心電図、携帯型心電計、最近はアップルウォッチの装着をおすすめしています。
ホルター心電図は病院でとる心電図のように12本のラインはなく2本のラインをみて診断をすることになります。病院での心電図よりは精度は落ちますが他2つのデバイスは1本であり自宅でできる検査の中では一番精度が高い検査です。
24時間での検査であることが多く発作頻度が比較的多い方に薦められる検査です。
携帯型心電計やアップルウォッチは24時間以上記録を残せ特にアップルウォッチは装着しているだけでずっと記録をとってくれる優れモノです。(携帯型心電計は症状が出たときに自分で胸に機械を押し付ける必要がある。)
しかし値段が高く全ての人に薦めるには至りません。
治療法は?
薬で治療するかカテーテルなどの手術か
心房細動は基本的に自然に治ることがほとんどないので、基本的に手術や薬が必要です。
それぞれ一長一短がありあなたにとってベストな選択肢を専門医と相談する必要があります。
薬物療法にはどんな方法がある?
実は、薬物療法と一言でいっても方向性が大きく2つに分かれます。
心房細動を正常な脈に戻す治療(リズムコントロール)、心房細動を受け入れて動悸や息切れなどの症状や脳梗塞などの合併症をコントロールする治療(レートコントロール)があります。
一見すると心房細動を正常な脈に戻す方法が良さそうに感じるのですが実はどちらも生命予後に差がないことが分かっています。そのため多くの方がこれまでは薬物療法で比較的薬の副作用の管理がしやすいレートコントロールを受けていました。どちらの治療法を選択しても心房細動は根治はできず生涯薬を手放せない状況となります。
カテーテル治療をするとどうなるの?
先に書いたように、心房細動の薬物治療は、治療をしても根本治療にならず薬物は手放せない状況になります。しかし2000年に入ってから心房細動の原因が肺静脈の異常興奮が原因であることに着目した肺静脈隔離術というカテーテルアブレーションの手法が出現しました。
その後カテーテル手法は進歩し心房細動の停止率の改善や合併症の低下が認められています。先ほど早期治療がよいとお伝えしましたが、発作性心房細動で約80%、持続性心房細動で約70%の成功率です。早く対応するほど心筋傷害が少なく成功率が高いという状況であり、カテーテル治療というと敷居がたかくついつい迷ってしまいますが、どうせやるなら早くやるほうが良いことをご理解いただければと思います。
まとめ
心房細動はある日突然だれがなってもおかしくない病気です。
その発生率を抑えるために出来る限り7つのリスクを減らしましょう。
治療方法も日進月歩ですが、現在のところ絶対的な治療方法がなくアブレーションが分がよいという状況です。皆さんにとって、カテーテル治療を受けるというのは一大事です。
どんな治療を受けるかよくわからないと不安がつのりますよね。
この記事が皆さんにとって少しでも有益な情報となり、不安が減らせるのであれば幸いです。
以上
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